小説 2

□DEEP BLUE 五章 (1-3)
1ページ/3ページ

第五章・恐れ・


 ―――空が深い蒼の色彩を象っている。
 
もう少しで、夜になってしまうだろう。
すっかり遅くなってしまった。 

俺は月に一度、都心へ出て買い物をしに町へ出る。
今はその帰りだ。

 ちらりと車の助手席の荷物を見た。
2人分の食料は結構な量だ。

こういうときは一人よりも二人いたほうがいいと思う。
まあ、キラには手伝えないから仕方ないか。

 ここ数ヶ月、キラは一歩も家から出ていない。
それというのも、毎日暗示を掛けた成果が出て、俺以外の人と関わるのが怖いのだそうだ。

罪悪感が一瞬だけこみ上げた。

 可哀想に、自分は人間じゃないと悩み苦しんで、テレビに映る人にすら恐怖を示す。


 対して俺だけには心を許すように仕向けてきた。

だから俺には恐怖どころか唯一、心を許してくれている存在として甘えてくれさえする。


 随分と俺は残酷な事をしているんだろうな。

だって、キラの傷を直すどころか反対に広げているんだから。


 でも、そうしないと俺が不安で堪らないんだ。


怖がらせてでも閉じ込めておかないといつかキラは飛んでいってしまう。

・・・それも、俺じゃない誰かと共に。



 ――――そんなのは耐えられない。



 もう少しで家に辿り着く、といったところで見慣れた車が止まっている事に気が付いた。

 あの車は確か、クライン家の・・・。

 俺は、自分の車を止めると外に出た。

すると、向こう側も俺に気がついたのか、ゆったりとした動きで車内から姿を現す。

 ふわりとピンクの長い髪を漂わせ、こちらへ近づくのは見慣れた歌姫。


「ラクス・・・」

「お久しぶりですわね、アスラン。」


 にこりと微笑むラクス・クライン。
華やかで見るものを引き付ける笑顔を向けて優雅に挨拶をしてきた。

少し前までは彼女の微笑みに癒しを感じていたものだが、とんだ思い違いだ。

今では、その笑顔に鋭さが含まれる事を知っている。

 彼女とは昔、婚約していた間柄だったが、今ではライバル関係にある。

だから、俺への態度は最近、刺々しい。

たぶん、気に食わないのだろう。同属嫌悪とはよく言ったものだ。

 まあ、自分の恋敵にいい感情を持てるはずないのだから当然といったら当然か。

俺も彼女へは敵対心を持っている。

「貴方が俺の家に来るなど珍しい。何か不測の事態でも?」

 俺も彼女に負けぬよう取り繕った笑顔を向けて対応した。

 不測の事態云々でこの歌姫が俺のところに直接来るはずがないことを承知でいう。

ラクスが俺の元へ来るなど、あいつの絡むときくらいだ。


「いいえ、今日は貴方に忠告をしに来たのです。時間もありませんので、本題に入らせて頂きますわね」


 歌姫の眼差しが鋭く輝いた。

いつものほわんとした雰囲気を一蹴し威圧感さえ漂う彼女は、さながら裁きの女神のようだ。

「アスラン、キラを監禁しているそうですね」

「久しぶりに会ったというのに、いきなり何を言うのかと思えば・・・。人聞きの悪い事を。」

 仮にも元婚約者だった人間に向かって。

「この数ヶ月、キラは誰にも会わず閉じこもっていると聞きました。しかも、それをさせているのがアスラン、貴方の仕業だと。」


「確かに俺はあいつが外に行くのに反対していますが、別にそれを強制した覚えはありません。キラは、まだテロの件を引きずっているんです。人前に出るのが怖いと言ってね。閉じこもっているのは、あいつの意思です。」


 そうあくまでも、キラが自分で決めて閉じこもっているんだ。その元凶が俺だとしても・・・。


「アスランがキラを大事に想っていることは知っています。・・・ですが、あまり独占してはキラの為になりませんわ。想いは時として人を縛り付けるもの。むしろ逆効果になってしまいます」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ