小説 2
□DEEP BLUE 三章&四章 (1-7)
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・3・影
キラがプラントに来て二ヶ月。
つまりは、あのテロの事件からそれだけの時間が流れた。
当初は、狙われたショックからか、食欲もなく睡眠さえ不安定だったキラは、大分落ち着きを取り戻している。
今では、表情も少しずつ戻ってきた。
あの日―――キラが、プラントに来ると承諾した時に約束した通り、俺はキラを真綿で包むように大事にして、傷つかぬよう守っている。
毎日、怯えるキラを宥め、惜しみなく愛情を注ぎ、震えているときは暖かく抱きしめてやった。
そういった成果が出たのか最近では、魘されて眠れなかったキラが俺の側ではよく眠れるといってくれ、食事も俺と一緒だと食べる事ができるという。
キラが俺の手で元気になっていくのを見るのは至福の喜びだ。
こんなとこならオーブに迎えに行った時点で、無理やりにでもキラをこちらに連れて来ていればよかった。
あの女になんか預けずに。
そうしておけば、テロに巻き込まれるなんてことなかったのに。
それは、俺のミスだな。
『おいっ?アスラン聞いてるのか。』
大声で言われて、はっと我を取り戻す。
目の前の画面を見れば最愛の幼馴染そっくりな少女の姿。
そういえば今はカガリと打ち合わせの為に通信の最中だったのだ。
俺とした事が、話の途中にカミングアウトしていたなんて・・・。
それだけ俺の頭はキラの事でいっぱいなんだな。
『あの事件のテロリストは、先日クライン派の幹部によって処罰されたよ。』
「そうか、それは何よりだ」
『犯人は、全員ブルーコスモスの残党だそうだ。』
「知ってる。キラから聞いたからな」
『キラを狙った理由なんだが・・・よく分かってないんだ。』
「どういうことだ?」
『なんでも、ブルーコスモスの本部に匿名でキラの情報が提供されたか何かで・・・。理由があやふやでさ。』
「・・・・・・」
『まあ、それはいいさ。またくわしくこちらで調べておくから。それより、お前に頼みがあるんだが』
「なんだ?」
『その、キラをちょっと呼んでもらえないか?あのテロ事件から二ヶ月ほど経つし・・・。あの後、すぐお前の所に行っちゃって、一度も逢えなかったからさ。別に長時間話そうなんて思ってない。たださ、顔が見たいんだ』
懇願するような眼差し。
いつもは強気な彼女が俺にモノを頼むなんて初めての事だ。それだけキラが心配なんだろう。・・・けど。
「キラは、まだテロのショックから抜けていないんだ。今は、大事な時期だしなるべくそっとしてやりたい。残念だけど・・・」
誰がキラにあわせてやるか。
近頃、ようやくキラも落ち着いてきたというのに。
例え画面越しであろうとあいつを二度と俺以外のやつの目に触れさせたくない。
我ながら子供じみた独占欲だとは思う。
仮にも、一度恋仲に陥ったことのある女性に対して敵対心を感じるなんて可笑しい事だろう。
だけど、それは止める事が出来ないし、止められない。それだけキラが大切だから。
『なあ、頼むよ。アスラン、キラに…』
なお食い下がろうとする彼女を無視して俺は、そのまま通信を切ろうとした。
だけど…。
「あれ?カガリ?」
そんな、俺の心情をまるで知らない可愛らしい声が後ろから響いた。
会わせたくないと思っていたのに、キラはそんな俺の心を逆撫でする行動を取ってしまう。
俺はお前の為に、断ろうとしていたというのに。
キラに聞こえない小さな音で舌打ちする。
『キラッ。大丈夫なのか?』
「うん、あれからもう大分経つし・・・。いつまでも落ち込んでいても駄目だと思うから・・・。それにしても、久しぶりだね、カガリ。元気そうで良かった」
『それは、こっちの台詞だっ!通信しても、アスランしか出ないし、全然キラの様子とか分からなくて・・・。心配したんだからな。』
画面のカガリは、キラに会えた嬉しさからか薄っすら涙を浮かべて笑った。
キラもそれに吊られて花のように微笑む。