小説 2
□DEEP BLUE 1章 (1-5)
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―――ずっと、思っていたのだ。
君が僕のものになればいいのにって・・・
■ DEEP BLUE ■
戻れるものなら戻りたい。
取り返せるものなら取り返したい。
本当に欲しい物も、望むものもただ一つ。
執着や依存なんかより重いエゴという名の鎖に
―――捕らわれたのはどちらだろう?
・1・自覚
コーディネーターとナチュラル。二つの種族を巡る戦いは、両者の理解と和平条約を持って締結した。
まだ完全に終わったとは云い難いが、表向きは平和な時代になったのだ。
俺達は、戦後マルキオ導師の光の家に身を寄せていた。戦争で荒れた心を癒す事が、必要だったから。
しばらくは、この静かな島で平穏な一時を過ごしていた。
もう、いつ戦闘開始のアラートが鳴り響くかなんて心配しなくていい。
穏やかな場所で体を休める日々・・・。
だけど、いつまでも平和に浸っているわけにもいかない。
これからの事を考え、未来を作るには行動を起さなければならなかった。
先に、カガリが首長代表としてオーブに復帰し、次いで歌姫の再来を求める人々に応えたラクスがプラントへと戻っていった。
俺は、カガリからオーブに来ないかと誘われもしたが、断った。
彼女とは戦中に恋仲にあったこともあった間柄だ。
出会いこそ最悪だったけれども、接していくうちに親しくなっていって…。
辛いとき何度も彼女には支えられたし、カガリがいなかったら自己を保っていられなかったかもしれない。
不器用で男勝りだけど、ふと見せる可愛らしさに愛しく思った事もある。
だけど、いざ戦争が終わってみると不思議とそういった恋愛感情が、さっぱり無くなっていた。
なんというか、一気に夢から覚めたような感覚。
以前、感じた愛しさやときめきがまるで感じないようになった。
それは、おそらくカガリの方も同じだろう。
彼女も、そう言った意味で俺を誘ったのではないみたいだから。
俺は考えた末に、ザフトやプラントの重役に求められプラントに帰還することとなる。
だがキラだけは、この家に残る事になった。
いくら休息を得ても戦争によって傷つけられた心の傷はそう簡単には癒えてくれない。
キラは、大事なものを奪われすぎた。
そしてキラが復帰できないもう一つの理由が戦争による心の後遺症だ。
つまりは、精神的なダメージが大きすぎたゆえのトラウマ。
あんなにコロコロ変わった表情が硬くなり無表情になった。よく笑っていた顔がこわばってしまい、何をしても・・・誰が話し掛けても表情に変化がない。
そして特に酷いのが対人恐怖症。
俺やラクスなど気心しれた人間には平気なようだが、あまり知らない他人や、酷い時は子供たちにまで恐怖を見せるようになった。
それだけキラの受けた傷は深いのだろう。
だからキラだけは、そのままここにいることに決まった。
無理に身の振り方を決めるよりは、まだ休息を取った方がいいだろうと。
俺はプラントに戻る事になったものの、できるならキラの側についててやりたかった。
精神的に安定していないあいつを一人にさせるのはまだ不安だったから。
だが、キラは言ったのだ。
『僕は、まだ立ち直れないけど君には為すべき事がある。側にいてくれるよりは、君のやりたいことをしてくれる方が嬉しいよ。』
まだ癒えない傷のせいで表情が豊かではないのに、無理やり笑いながらそう言ってくれた。
俺にこれ以上、迷惑を掛けたくないのだと。
ホント。キラはお人よしだよな。そういうところは昔のままだ。
自分より人の事を優先させる優しい心は。
俺はこれっぽっちも迷惑だなんて思ってないのに。
キラがせっかく気を使ってくれたんだ。俺はプラントに一度戻る事に決めた。