小説 1

□LIFE GOES ON(アスラン編)後編
1ページ/3ページ

      *


荒ぶる熱が収まり、ゆっくり己のモノを引き抜いた。


ごぽっと、音を立ててキラの内部から取り出せば、同時に己が吐き出した白い液が溢れだしてくる。

白いモノに、濁った赤い色を見つけて後悔が胸を過ぎる。


かなり、傷つけてしまったようだ。


熱が過ぎて、一度我に返ってしまえばいかに自分が酷い事をしてしまったのか自覚してしまう。


「…すまない、キラ」


 荒い性交で意識を失ったキラに、そっと囁いた。
何てことをしたんだ、俺は。

これじゃ、ただの強姦じゃないか。

一方通行の欲を吐き出す為だけのセックス。

いくら恋人関係にあるとはいえ、相手のことを考えないで行為におよぶなど最低だ。

そうして自己嫌悪に陥っていると、隣で気を失っていたキラが僅かに動いた。

固く閉じていた瞼が、ゆっくりと開かれる。


「んぅ……アス…」

「キラ、気が付いたのか…」

「ぼく…」

「すまない…キラ。俺……」


俺は、お前にひどいことを…。

どう謝っていいか分からずに、俯いてしまう。


「俺は、最低だ。いくら苛立っていたとはいえ、あんな…。」

「僕なら…大丈夫…だよ、アスラン」

「嘘付け、そんな青い顔して…。無理しなくていい」


 身なりを整えてやったとはいえ、キラの身体は傷だらけだ。

砂の粒で擦った傷や、無理やり押さえつけた跡…それに、蹂躙した場所も酷いことになっているはず。

 大丈夫とは程遠いキラの痛々しい姿に、罪悪感で消え入りそうになってくる。


「謝って済む問題じゃないって分かっている。でも、本当にごめん。なんなら気が済むまで殴ってくれても構わない」


「目、瞑って」


「ああ」



酷く殴られるだろうと察して、固く目をつむる。

だが、いくら待っても想像した衝撃は訪れなくて。

何でだろうと思っていると、羽のような柔らかい感触が唇に触れた。


「え…」


触れるだけの、バードキス。

先程行われた行為を思わせないほど、小さくて幼いそれは、一瞬だけ触れて溶けた。


「キラ、どうして」


 なんで、こんな行動をとるのか分からない。

てっきり殴られるかと思っていたのに。

あんなことをやったんだ、それくらい当然だと思っていた。

 キラは驚いている俺の頬に、そっと触れて優しく笑む。


「君が何に苛立っているのか。僕には分からないし理解できない。さっきのだって、痛かったし辛かったけど…」


 涙の跡が残る痛々しい顔なのに、彼の表情からは俺を攻める負の感情は、まったく感じられない。

 むしろ、全てを包んで許すような微笑み。まるで、罪人を許す女神のようだ。


「どんなに、酷いことされても…嫌いになれないよ」

「キラ、お前なんでっ!」


 あんまりにお人よしなキラの言葉。

そんな風に、俺を受容できるのが信じられなくて思わず叫ぶように言った。


「何でそんな簡単に許せるんだ?俺はお前を強姦したも同然のことをしたんだぞ!」


……それなのに、どうして…。


「もっと、怒れよ。俺を殴れよ!最低だって、詰ってくれよっ!こんな中途半端な優しさなんかいらない!」


 時として、優しさは相手を傷つける刃になる。

 今、俺が欲しかったのは全てを許すような微笑みではなくて、嫌悪を含んだ軽蔑の眼差しだ。


 俺は、キラに怒って欲しかった。


 なんて酷い事をしたのかと責めて貰いたかった。

 俺は、怒って貰えないほど酷いことをしたのは分かっている。



 でも…。



「お前は、残酷だ…、キラ」



 キラの胸に顔を当てて、低い声で言った。

 あまりに、自分が情けなくて泣いてしまいそうな気分だ。



 キラは、しばらく何も言わずに、俺をじっと見ていた。

 冷たい吹き込む風が、僅かに暖かくなってきた頃、彼はぽつりと呟きを落とした。


「何で、許せるかって君はいうけど…。許すも許さないもないよ。…だって僕も望んで、した行為だから。君を怒るなんて筋違いだ」


「違うっ!あれは、セックスなんかじゃない!ただの暴力だ!一方的に傷つけて、蹂躪して…」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ