小説 1
□Puple Olion 第5章(1-4)
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・5・ 君のとなりで (キラ)
心地よい静寂が、辺りを包んでいる。
僕以外、誰もいない島はとても静かで。
夜になると、鳥も動物も休んでいるから、小さい音すらしない。
まるで、世界が死んでいるみたいだな…そんなことを思いつつ空を見上げる。
見上げた夜空は、薄い蒼で彩られて星がチカチカ瞬いていた。
シンが、ここから巣立って二日経った。
遠からず、きっとこの島にアスランがやってくるだろう。
これは予感ではなく確信。
シンは、優しい子だ。
彼が、今の僕のことをほおって置くわけがない。
きっと僕のためにアスランを、ここに寄越そうとするだろう。
僕は、ずるい。
分かっていたのに。
シンは僕のことを気にしてくれてる事なんて。
本当に優しい子だから。
そんな純粋なシンを利用してまで彼に会いたいのか、僕は…。
結局、僕はアスランのことを諦められていないのだ。
軽く苦笑して、空を見上げる。
―――夜が、あけようとしていた。
* *
がたんっと、扉が開く音がする。
一緒に暮らしていたシンがいない今、扉が開いたということは外から、誰かが来たということだ。
ふと、背後に人の気配。
それが誰かなんて見なくても、気配で分かる。
「やあ、久しぶり。アスラン」
振り向けば思ったとおりの人物が、僕を睨むようにして立っていた。
「やっぱり、来たんだね」
記憶の中のままの夜色の髪に、煌くエメラルドの瞳。
焦がれていた姿に、眩暈がするほど歓喜している自分がいた。
「キラ…」
求めていた声に呼ばれて、思ったよりも動揺してしまった。
悟られないように平静を装う。
「せっかく、来てくれたところを悪いんだけど僕は君に何も話す事は無いんだ。悪いけど、帰って…」
どんっ!
「―――――――――っ!!」
突き飛ばされて、背が壁にぶち当たる。
どうやら、強引に押さえつけられたようだった。
「何を…。ぅっ……いた…」
押さえ込まれた腕が、ぎりぎりと痛む。
そこでようやく合わさった視線に、はっと息を呑んだ。
「俺は、怒っているんだ」
苛烈に輝くエメラルド。
どうやら、彼は本気で怒っている。
見るものを圧倒するような激しい威圧感を漂わせるアスランに、ひっそり怯えを感じた。
「どうして勝手に消えたりした?」
「何でって、それは…」
君の側にいるのが辛くなったから。
君の幸せを壊すのが辛かったから。
そんな事、言えるはずもなく。
「…一人に、なりたかったんだよ。この前の戦争が終わって間もなかったから、誰もいないところで静養したかったんだ」
「シン・アスカと一緒にか?」
凄みのある声に問いただされて、びくりとする。
その迫力に呑まれて声が震えそうになった。
「そうだよ、悪い?彼も僕と同じように苦しんでいたから、助けてあげたいと思った。それに、僕が誰とどうしていようと勝手だろ?君に、とやかく言われる筋合いはない」
そう答えれば、彼は益々苛立った形相をして。
「俺は、ずっと消えたお前を探していたんだぞ?静養したいなら、するで何故俺に何も言わなかったんだっ。」
「僕は、君に探して欲しいなんて思ってなかった!アスランが勝手に探したんだろ!」
お互いが、自らの言い分をぶつけ合う。