小説 1
□Puple Olion 第四章(1-4)
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・4・ 選択 (アスラン)
―――――キラがいなくなって、早一年が過ぎた。
俺はこの一年、血眼になって必死にあいつを探した。
仕事や役目など全部放棄して。
今、俺にある権力や財力の全てを行使してあらやる人脈を辿り、地球・プラントと宇宙中をくまなく探索した。
けれど、今まで手がかりのひとつも見つかっていない。
消えた時間も、失踪した経路も居場所も何一つ分からず謎のまま。
その中で、唯一つ分かっていること。
それは、キラが消えた理由。
あいつが誰にも告げずに失踪した理由は、たぶん俺にある。
キラとは親友だったはずなのに、身体を繋げるという不毛な関係にあった。
そんな関係を持ちながら俺は、そのキラと兄弟であるカガリと婚約をしていた。
なんて、節操がなかったのだろう。
しかもその時の俺には、キラとカガリの二人とも大事で。二人の思いの意味はそれぞれ違ったけれど、大事であることには変わりはなく。
どちらかを、捨ててどちらかを選ぶことをしようとしなかった。
キラは、そんな中途半端な俺に嫌気が差したのかもしれないな。
一年ほど前に、カガリと交わした婚約はもうすぐ結婚という儀式に移り変わろうとしていた。
婚約を受けたのだって、ほんの軽い気持ちだったのだ。
カガリのことは、好きだし、他の名も知らぬ女と契りを交わすよりは、ましかと思った。
それに、なんといってもカガリはキラを血の繋がりのある姉弟だ。
カガリと結婚すれば、その弟であるキラは俺の血縁の者にある。
そんな軽い気持ちでいた自分が、たまらなく憎かった。
「キラ…」
ぽつりと、名を呟いてみる。
あいつがいなくなってから幾度、この名前を呼んだか分からない。
キラ・ヤマト。
この世で一番大事で、大切で、俺が執着する唯一の存在。
そのキラがいなくなって覚えたのは、どうしようもない飢えと憎しみに似た強い感情だった。
なんで、俺に黙っていなくなったんだ。
俺は、待っていろと言ったのに。
俺の何の許可もなく勝手に消えることなど許さない。
そもそもお前はなんで自由に勝手なことをするんだ?
自分が誰のものか、理解しているのか?
おまえは俺のモノなのに!
…なんて身勝手な感情なんだろう。
こんな強い想いを抱きながら、キラに今まで告白のひとつもしていない。
それなのに、所有物扱いしていた自分が滑稽だった。
そして、ここまで来たら認めざるを得ない。
俺は、キラを愛しているんだ。
友情の範囲を超えた意味での恋情として。
―――今までは、気づかなかった。
あいつのことを好きだとは思っていたし、体を重ねはしていたけれど、それ以上の感情は自分にないと思っていた。
いや、思い込もうとしていたのかもしれない。
たぶん、認めるのが怖かったのだ。
キラを愛していると自覚してしまえば、何かが壊れる気がしていた。
キラがいなくなる前に気付いていたなら…あいつは今も俺の側にいてくれたのだろうか。
ふいに、窓の外の空を見る。
夜になろうと黄昏れるそれは、どこか刹那的であいつを思わせた。
もう二度とキラに会えないのだろうか…。
一人の訪問者によって、このあと俺は大きな選択を迫られることになる。