小説 1
□Puple Olion 第二章(1-4)
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・2・静かな日常に (シン)
俺は、あの戦争が終わってからキラさんと2人、とある小さな島で暮らしていた。
ここは太平洋沿いに浮かぶ辺境の島々の一つで、信じられない事にキラさんの個人所有地であるという。
なんでも三年前の戦時後に支給されたお金で買ったのだそうだ。
この島は特殊な島で、潮の流れで偶然に辿り着けるところでなく、とある政治家たちが隠れ蓑に所有していたのを買い取ったらしい。
キラさん個人の所有する島なだけあってここに住んでいるのは、島の持ち主であるキラさんと、居候させてもらっている俺の2人だけ。
俺は、戦後誰にも告げずにここへ来た。
親しかったミネルバクルーや同期の仲間、それに戦時中に親しくなったどこか自分に似た不思議な女の子、それに大事な相手である彼にも・・・。
あの時、自分は普通じゃなかった。
他の人の事を考えている余裕がないくらい、戦争の爪あとに深く悩まされているときで。
俺は戦争によるトラウマが特に酷いようだった。
幾ら鍛えあがられていた兵士だったとはいえ、元は普通の学生が他人の命を奪うのだ。
並の神経では耐えられる事ではない。戦争中では人を殺して誉められても、終わってみたらただの殺人者だ。
その違いのギャップにどうしようもなく悩まされ、食事すらとれないほど思い詰めていた。
極度の緊張状態が溶けて今さらになって罪悪感が深く込み上げて来て。
夢にまでそれは現れて、俺が殺したパイロットの断末魔だとか、真っ赤な海だとかがよく俺の眠りを襲った。
それで、いつも飛び起きて夜も満足に眠れなくて。
正直、参っていた。体力的にも、精神的にも。
―――そんな時、俺に救いの手を伸ばしてくれたのがキラさんだった。
『辛いなら一緒においで』
ふわりと、優しく微笑みながら、俺を誘ってくれたキラさん。
荒んで壊れかけた俺の目には、その姿が救いの主に思えた。
そうして、彼に手を引かれてこの島にやってきた。
この島に来ても始めは、昔を思い出して怯えていた。
鳥の鳴く声なんかは人の叫び声に聞こえてならなかったし、波の音も断末魔に聞こえて震える毎日だった。
そんなとき、キラさんはいつも俺の背を撫でてくれて、発作が収まるまで側にいてくれた。
優しく朗らかな彼によって、怯えていた俺も少しずつだけど、癒されて行って。
今では、戦争のトラウマが、すっかり消えてしまうくらい回復していた。
キラさんがいてくれなかったらきっと俺は、過去の重みに潰されていたかもしれない。
俺がここまで立ち直れたのは、キラさんのおかげだ。
***
「よし、これで今日の晩ご飯の準備は完了…と」
ぐつぐつと、煮込む音が聞こえる鍋から美味しそうな香りが漂ってきた。
ちなみに、今日のメニューはシチュー。
料理なんて今までしたことなかったんだけど、キラさんと暮らすようになってから少しずつ教えて貰ったから、今では味の方もそこそこ美味しく出来るようになった。
サラダも作ったし、食器も並べたし、もう用意はできたな。
あとは、同居人を呼びにいくだけ。
「さてと、キラさんは、外かな」
たぶん彼は海を見にいってるのだろう。
キラさんは、海を見るのが好きだから。
そう思って、がらりと玄関を開けると外に出た。
家から少し歩を進めると、すぐ海が見える。
ここはとても穏やかな島だ。
俺たちの他に住んでいる人もいなければ、建物すらない。
ただ自然のまま満ち溢れた植物や動物が住んでいるだけで。
キラさんがここに連れてきてくれた理由がわかる気がした。
ここは戦争をしていたことなど、吹き飛んでしまうくらい毎日が平穏で安定しているから。
ふと、見慣れた小柄な背中を海岸沿いに見つけて、駆け寄りながら彼の人の名前を呼んだ。
「キラさーん!」
急いで、彼の元へ駆け寄る。
「こんなところにいたんですか。探したんですよ。夕飯の用意が出来たから」
「…………」
「キラさん?」
あれ?おかしいな、どうしたんだろ。返事がない。
まさか、俺を無視しようとかはしてないだろうし。
キラさんに限ってそれはありえないしな。だとすると…。
「キーラーさんっ!」
今度は、飛び切りの大声で名前を呼んでみた。