小説 1
□LIFE GOES ON 一章(1‐5)
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「この場所だったよね、確か」
AAを留めてある場所からひたすら北に歩き、小さな崖をいくつも越え、最後は全力で走り、ようやく辿り着いた場所。
夕方に再会したのと同じ、海岸。
「まだ、アスランは来てないのかな」
きょろきょろと、辺りを見回してみるけれどそれらしい人影は見当たらない。
といっても、街灯や光が一切無いので回りの様子が殆ど分からないけれども。
腕に巻かれた時計を、ちらりと見る。
短針が1を指していた。
もう日付が変わって一時間近く経っている。
「アスラン、遅いな…」
人を呼び出しておいて、遅れるなんてどういうことだと心の中で毒づいてみた。
こっちは全力疾走で来たというのに。
しかも、時間の指定が『日付が変わる時刻』っていうのも大雑把過ぎる。
これがアスランからの呼び出しでなければ、怒って帰るところだけど。
結局、僕は彼に甘いのかもしれない。
そんなことを考えていると、さあっと風が吹いた。
海岸特有の乾いた風が髪を撫でていく。
寒いと感じて身を震わせた、その時…僕の後ろで人が近づいてくる気配がした。
じゃり、と砂を踏む音が身近に感じられて、ゆっくりと音のする方向に振り返った。
振り返った先も明かりがないせいで、一面の闇が広がるだけ。
だけど、どんなに暗くても、彼の姿だけは見つける自信はある。
「キラ」
まだ少年の名残りがある、甘い声。
呼ばれた先に佇む影は、待っていた幼馴染のもの。
「アスラン…」
僕も彼の名を呼ぶ。
お互いを認識して傍へと歩み寄った。
「来て、くれたんだな…」
「君の呼び出しを無視できるはずないだろ。それより抜け出してくるの、大変だったんだからね」
見つからないかと、すごくひやひやしたんだから、文句を言ってやれば、淡い苦笑が返ってきた。
「それは、俺も同じ事だよ。夜中に独断で行動するなど本来なら軍法会議モノだからな。まあ、セイバーを動かして来たから行動は艦長にばれているとは思うけど」
「君、機体に乗って来たの?」
親友の突飛な行動に呆れてしまう。
「そうだ、他に交通手段がないからな」
「夜中に、機体なんか動かして大丈夫だったの?」
特別な理由があるのならともかく、こんな真夜中に機体を動かすなんて普通できないんじゃないだろうか。
「セイバーは、議長が俺に託して下さった機体だ。ある程度は、俺の権限だけで動かすことを許されている」
「そう・・・」
その言葉を聞いて胸がちくりとする。
実のところ彼がザフトに戻ったことがまだ認識できていなかったから。