MEGANE
□禁断の……
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MGN・商品企画開発部第1室部長執務室。部屋の主は、カラフルな書類を掴む両手をわなわなと戦慄かせていた。
「こっ、こんな……っ」
動揺を押し殺せていない御堂を、彼の部下兼恋人の佐伯克哉が心配そうに見遣る。
「部長…?」
「君は…君はどうだった?見せてみたまえ」
「は、はあ…」
勢いに押されるように部屋を出た克哉は、だがすぐに戻ってきた。部長のご所望のものを、いくつかの書類の中に紛れさせて。
二つ折りにした書類の三辺を貼り付けられていた封筒様の克哉の究極的個人情報は、先ほど本人の手によって開封され、今や御堂の眼先で熱心に彼のものと比較されている。
「………正常値、だな……」
「はあ、ありがとうございます…?……って!御堂さん、どこかお悪かったんですか!?」
勢い込んで尋ねる克哉に、項垂れた御堂は手にしていた二人分の健康診断の結果票を差し出した。
「えっと、失礼します」
身長・体重、変化なし。視力・聴力、異常なし。血圧・胸部X線写真・心電図・腹囲・体脂肪率、全て問題なし。
問題があったのは。
「あー…、これは……」
血液検査の結果の中で肝機能の欄だけに『基準値から外れてますよ』な*印が付いていた。
まあ、深刻な数値ではなく、逸脱したのがほんの少しだけだったのが、救いと言えば救いだが。
「やっぱり、前日にワインを召し上がったのがまずかったんでしょうか……」
「だが、一緒に飲んだ君は正常値だっただろう!」
「それはそうですけど…」
むつっと不機嫌も露わに視線を外す御堂に、思わず吹き出しそうになる。こういう顔をしている御堂は、実は拗ねているだけだと、克哉は知っているから。
プロトファイバーの営業に奔走している頃だったら、きっとびくびくと怯えることしか出来なかった。きっと御堂を苛つかせることしか出来なかったけれど。
克哉は何とか笑いを収め、御堂の結果票をデスクに置いた。
「じゃあ、御堂さん?」
呼ばれて視線を戻した恋人に、にっこりと微笑む。
「休肝日、作りましょう。オレも付き合いますから」
ね?と首を傾げると、御堂はいや、とかしかし、とか、珍しくもごもごと口の中で反駁した。
「オレと共に歩んで下さるのなら、お身体の方も気遣って下さらないと」
克哉のこの笑顔に御堂が抗えないことに、本人は気付かない。
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