MEGANE
□僕たちは奇跡
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これは、こいびとたちにおこった、ふしぎなおはなしです。
12がつ25にち。
しごとのおわりのチャイムをきいて、かつやくんは すぐにかいしゃをでました。このあと もよおされる、ふたりだけのささやかなパーティのじゅんびをするためです。
きのうまでは それはもういそがしくて、とてもクリスマスイヴをいわう、などというじょうきょうではありませんでしたから、きょうだって したごしらえにたっぷりじかんをとるような、こったりょうりなどは つくれません。
それでもかつやくんは たかのりくんによろこんでもらおうと、はりきって かれのマンションにむかいました。
「あれ……何だろう、これ?」
たかのりくんにもらったカードキーで へやのかぎをあけ、なかにはいったとたん。
かつやくんのめに、よくわからないものが とびこんできました。
それは、おおきなたまごでした。かつやくんのひとみにそっくりな、あわいあおのから。ひとかかえもあるそれは、われないようにか あかいふわふわのだいざのうえに おかれていました。
「御堂さんかな?取り敢えず、割っちゃうといけないから…」
かつやくんは たまごをだいじそうにだきかかえると、リビングのすみっこの、ふだんとおらないばしょに そっとおきました。
「克哉、今戻った」
「お帰りなさい、御堂さん!」
へやのあるじのきたくを、かつやくんは とてもうれしそうに でむかえました。たかのりくんも やわらかくほほえみながら、かつやくんのくちびるにキスをおとします。
―――ほんの2じかんほどまえには、おなじしょくばでかおをつきあわせていたというのに、まあなんてばかっぷるなのでしょう。
それはさておき、たくさんのりょうりがならべられ、きれいにセッティングされたテーブルをみて、ダイニングにあしをふみいれた たかのりくんは、おどろいたようにいいました。
「克哉…これだけ用意するのは大変だっただろう」
「そんなふうに言って頂くほどのことじゃないんですよ。料理だってほとんど出来合いのものですし」
すみません、と、もうしわけなさそうに、はずかしそうに かつやくんはわらいますが、それらのひとしなひとしなにはアレンジがくわえられていて、ただの『出来合いのもの』とはおもえないくらい、おいしそうなゆげが あがっています。
かつやくんのあいじょうにかおをほころばせたたかのりくんも、そのようすをみていたかつやくんも、しあわせをかんじながら おいしいりょうりに したつづみをうちました。
「あ、そうだ御堂さん。こんなのが届いてましたけど、御堂さんが頼まれたんですか?」
しょくじをおえて、ワインとチーズ、それにたかのりくんがかってきたケーキをまえに ソファでのんびりくつろいでいたとき、ふとおもいだしたように かつやくんがせきをたちました。
もどってきたかつやくんのうでには、あのあおいたまごが だかれています。
おぼえのないたかのりくんは、そのきれいなまゆを わずかにひそめました。
「いや、私ではないが…」
(そもそもこんな大きな卵、一体どんな動物のものだと言うんだ?形状からすると鳥類らしいが、ダチョウの卵だってもっとずっと小さい筈だ。それにこの色…天敵に狙ってくれと訴えているも同然じゃないか)
たかのりくんがぐるぐるとかんがえこんでいるあいだに、かつやくんはたまごをだいたまま、たかのりくんのとなりに こしをおろしました。
「そうですか…。じゃあ何なんでしょうね、これ…」
ひざのうえにたまごをおろすと、すべすべのひょうめんのかんしょくを たのしむように なでています。
そのとき。たまごのなかから、こつこつとなにかをたたくようなおとがきこえました。
「え…」
「克哉…っ」
たかのりくんがあわててこしをうかせたときには、もうはんぶんほど たまごにひびがはいっていました。ところどころ かたいからがはがれ、うすくやわらかいまくが かおをのぞかせています。
はしうちのおとがやんだ、とおもったとたん、なにかがびゅっと たまごからとびだしたのです…!
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