THANKS

□君の名前。
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 秋晴れの長閑かな昼休み。

 二人でのんびり寛げる芝生を求めてほてほてと歩いていた和希は、隣の愛し子の言葉に、ぱきん、という音が聞こえそうなくらいに固まった。

「……え? も、もう一回。もう一回言ってみてくれないか、啓太」
「だぁから、和希って和希だよな、って……。…ちょっと! 熱なんかないって!!」
 余りに胡乱な言葉に愛し子の額の熱を確かめると、いかにも心外な、といった声音で手を掴まれた。
「あ、う、うん、ごめん。でも」

 不満そうに口を尖らせる啓太は、目に入れても痛くないほど可愛い。だからこそ、心配性の血が騒ぐのだ。
「ゆうべ、夜更かしでもしたのか? ダメだぞ、ちゃんと睡眠をとらないと成長ホルモンの分泌が妨げられて……。あ! それとも何かおかしなものでも拾って口にしたとか」
「寝ぼけてもないし変なもの拾い食いもしてない!! お前、俺のことなんだと思ってるんだよ?」
 じっとりとした半眼で睨めつける啓太に、思わず視線を逸らして頬を掻いた。

「そうじゃなくって! 和希に『啓太』って名前は似合わないだろ?」
 『哲也』でも『英明』でも『郁』でも『臣』でも何か変だし、おんなじ音でも『和樹』とか『一機』とか『数紀』とかだと違和感あるし、と。指を折って名前を挙げていく啓太に、漸く和希は安堵の息をついた。

「何だ、そういうことか」
「うん。和希には『和希』って名前が一番似合ってる。綺麗で可愛くて上品で、ほんと和希にぴったりだよな。俺、大好きだよ」
 邪気なくにこにこと笑う啓太に、頬に上がってくる熱を禁じ得ない。
「あ…サンキュ、啓太。そんなふうに考えたことはなかったけど、―――うん、啓太がそう言ってくれると自分の名前がとても大切に思えるよ。でも啓太の名前だって…」
 元気いっぱいで可愛い感じで、俺、大好きなんだけど、と続けようとする言葉を遮り、啓太は和希の顔を覗き込みながら小首を傾げた。

「なあ、和希は自分の名前の由来って知ってる?」
「え?」
「歴史上の人物に因んでとか、親の名前の一部を貰ったりとか。ほら、王様のところは竜『也』さんの一字を哲『也』さんが貰ってるし、篠宮紘『司』さんは柾『司』くんと兄弟で同じ字を使ってるしさ」
 和希は何かそういうの、ないのか?

 興味津々、といった態度を隠しもしないで瞳をキラキラと輝かせる啓太に、和希は柔らかな笑顔を向けた。こんなにも自分を知りたがってくれていることが、とても嬉しくて、そしてちょっと恥ずかしい。
「ああ、それは…」
「それは私がお答えしよう、伊藤くん」
「え…っ!?」

 突然割り込んできた声に、和希と啓太は咄嗟に振り返った。



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