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□可愛い君と野獣たち?
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 夕食時真っ只中の学生食堂。
 生徒たちが固唾を飲んで見守る中、将に決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

「負けませんよ、会長。あなたが相手でもね」
 顎から滴る汗を手の甲で拭う成瀬。
「いい度胸だ。けどな、俺も負けられねえんだよ!」 胸の前で掌に拳を打ち付けて、不敵に笑う丹羽。

 いやが上にも高まる緊張感に、誰かがごくりと音を立てて唾を飲み込んだ。

 そこへ、救世主登場。

「いい加減にしないか、丹羽、成瀬!寮内で騒ぐのは皆の迷惑だと、何度言わせるつもりなんだ!!」
 渋面を隠しもしない篠宮が、二人の中に割って入ったのだ。

 大多数の人間が、事態の収束を予想し、詰めていた息をほっと吐き出したのだが。

「おう篠宮、いいところに!お前も入れよ!」
「そうですよ篠宮さん。いい機会だ、あなたとも決着をつけないとね」
「お、お前たち、何を…」

 戸惑う救世主さまを、二人が無理やり引き込んでしまった。


「覚悟はいいな……?」
「いや、俺は…」
 真剣な眼差しの丹羽にたじろぐ篠宮を尻目に。

「じゃじゃーん!『自分は遠藤のこ〜んなに可愛いところ知ってます』発表大会開催ーーー!!」
 静まり返った食堂に、成瀬の心底楽しそうな声が響き渡った。






 ……ぶつ。緊張の糸がぶっちぎれる音が聞こえた、ような気がする。






 そんな何とも言えない空気の中、「一番は俺な」と、丹羽が身を乗り出した。


「学園内の見回りの途中で仮眠を取ってるとな、遠藤が俺を探しに来るんだよ」
「それは、見回りじゃなくてサボりっていうんです」
「まあ聞けって。連れ戻しに来たはずなのに、俺が目を覚ましたらあいつ、俺と同じ木に凭れて眠ってやがるんだぜ!?もーうこんちくしょーってくらい、そりゃあ可愛い寝顔で!!これって、俺に気を許してるってことじゃねぇの?」
「何で自慢気なんですか、会長は。遠藤に迷惑かけるのは止めて下さいよ」
 頬が緩みっぱなしの丹羽を見る成瀬の顔には、羨ましいと書いてある、その厳しい言葉とは裏腹に。
「甘いな、成瀬。サボるふりをして、学園に不慣れな一年ボーズの息抜きの時間を作ってやってんだろ」
 得意満面の丹羽に、その場の誰もが「そんなアホな!」と心の中でツッコミを入れた。


「僕は誰かさんと違って遠藤に迷惑はかけてませんから。―――そうだなぁ、僕の一押しは、やっぱりお弁当を食べてる時の遠藤かな?」


 ………どうやら二番手は成瀬に決定らしい。


「僕の作ったお弁当を、遠藤は本当に美味しそうに食べてくれるんです。下手な店よりずっと美味しいですよって。食べた後に、ごちそうさまでしたって、にこって笑うところなんか、もう!!」
 うっとりと目を閉じる成瀬に、丹羽はうーん、と唸る。
「食いもんで釣るなんて、卑怯だろうが」
「これも僕の才能の一つですよ。悔しかったら、会長も遠藤に手料理を食べさせてあげたらいいでしょう?」
「てめえ、成瀬!啓太や滝が一緒じゃなけりゃ、食ってもらえねぇくせに!」
「関係ないでしょう!?遠藤が僕の料理を誉めてくれるのは事実なんですから!!」

 ヒートアップする二人の隙をついて、戦線離脱を図ろうとした篠宮だったが。腕をとられて断念せざるを得なくなった。

「今度は篠宮さんの番ですよ」
「そうだ!お前はどうなんだよ、篠宮」


 ……瞳が笑っていない笑顔が、怖い。


「お、俺は……そうだな」 逃げられない事を悟った篠宮は、常の歯切れは何処へやら、小さな声でぼそりぼそりと言葉を紡ぐ。

「点呼に間に合わなかった時などに、少し注意をすることがある。あまりに申し訳なさそうにするから、小言が終わった後に頭を撫でてやるんだが……その時の恥ずかしそうな顔が、愛らしい、と、俺は…」
「何ぃ!?篠宮、お前、遠藤の頭撫でてんのか!?」
 急に口を閉ざしてしまった篠宮に、丹羽と成瀬が詰め寄る。
「抜け駆けは無しですよ!僕だって遠藤を抱き締めたいのを必死に我慢してるのに!!」
「それを言うなら俺だってなあ…!…いてっ!」


 二人の後頭部が、同時にぺち、と音を立てた。背後から漂って来る冷たい空気に漸く気付き、恐る恐る振り返る。




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