HEAVEN

□同じ刻を過ごす幸福
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 夕食も課題も終えてしばらくして。
 消灯を一時間後に控えた今、僕は遠藤の部屋に押し掛けていた。

 ……最近は大体そう。『啓太に振られた』僕を気遣って、好きなようにさせてくれるんだ。
 時折やっぱり消灯時間までに部屋に戻ってない時もあるけど、そういう日以外は迷惑そうな顔もしないで僕の訪問を受け入れてくれる。

「………成瀬さん、もう戻ったらいかがですか?」
「え?だって、もう一時間しかないよ?」
 僕の言葉に不思議そうに顔を上げた遠藤は、小首を傾げ、その綺麗な瞳を僅かに瞠った。
「……普通はそこ、『まだ一時間ある』っていうんじゃありません?」
「そう?だって今日こうしていられるの、後一時間だけだから。ね?」
 再び視線を手元に落として肩を竦め、呆れたように溜め息をつく。さっきよりちょっとだけスピードアップした指先が、オレンジ色の糸を通した針で同色の布地を縫い止めていく。
 …何か変な形なんだけど、何が出来るんだろう?
 興味津々の僕に、遠藤は視線を縫い物から外さないままぽつんと言葉を零した。
「その一時間、もっと有意義に使う方法なんて、いくらでもあるでしょうに……」
「ええー!?これ以上有意義な時間の過ごし方なんて考えられないよ!」
「課題とか予習とか」
「もう済ませちゃった」
「今度の試合に向けての研究とか、イメージトレーニングとか」
「ばっちりだよ!ちょっと気分転換したいんだよね、僕」
「じゃあ、えー…っと…」 困ったように眉を下げる遠藤ににじり寄り、下から見上げるように顔を覗き込んだ。
「…ねぇ、迷惑かな?僕、ここに居ない方がいい?」「別に…迷惑とかじゃありませんけど」
「よかった!じゃあ、もう少しここに居ても構わない?」
 目の前の後輩はとても綺麗な苦笑(変?)を浮かべながら、しょうがない人だなぁ、構いませんよ、貴方の気が済むまでどうぞ、と頷いてくれた。

 もう、なんて可愛いんだろう!僕がわんこなら、きっと今耳を後ろにぺたんと伏せて、きゅんきゅん鳴きながら尻尾を千切れそうな位ぶんっぶんと振ってるに違いないよ!




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