TREASURE

□melting point
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【melting point】






「っしゅん…っ」



思わず出たくしゃみに、鼻をズ、と啜る。

風邪をひいた。

健康管理には気を遣っていたつもりだったが、年末というこの時期、本社の忘年会やクリスマスパーティーといったイベントに駆り出され朝まで呑みそのまま授業へ出るという不摂生な生活を続けたのがやはり響いてしまったか。

足を動かすのですら億劫だ。

午前中の授業を終え、焦点の合わない視線でフラフラと歩く今の自分はさぞかし滑稽だろう。



「あー…寒気がする…」



カラカラに渇いた喉から出る音は、掠れている為に独り言は周りの生徒の耳には届かない。

それを幸いと思いながら重い足を1歩、前へ踏み出すと、ふわり、と身体が浮いた。

もう自分には地面を蹴る感覚すらないのか。



ああ、身体限界なんだ…



そんな事を頭の隅で考えていると、頭上から降ってきた、怒声。



「当たり前だっ!こんなになるまで無理しやがって…!!」



鼓膜を揺らすその怒声に、和希はビクリと身体を震わせた。



「お…さま……?」


瞼を持ち上げれば心配な面持ちで此方を見詰める鋭い視線。

情けなくハの字に下がった眉に、ぼうっとなる頭を回転させる。



「あ、の…?」

「そんなフラフラ歩いてりゃ、具合悪いって一目瞭然じゃねぇか。お前を見て慌てて飛んできたら寸前で倒れるしよ。」



長い溜め息と共に絞り出されたその声音は、どこか怒りを溜めている様で。

そして、漸く気付く。

背と膝裏に熱い腕が添えられている事に。



「俺、抱き上げられて…?」

「間一髪だったぜ。あと少し遅かったらその白い額にデカいコブでも作ってたかもな。」

「はぁ…」



自分はそんなに重症なのか。

首を傾げれば、身体を抱き上げる腕に力が籠る。

思わず胸元にすがると自分を癒す、温もり。



「あったかい…」



その熱に安堵の溜め息を漏らし、和希は胸元に顔を埋めた。



「王様ってカイロみたいですね…」



そう呟き、温もりへ身を沈めた。

今日だけですよ、甘えるのは。

体調が悪いから、特別に甘えるだけですから…ね?







「カイロかよ…」



もっと良い喩えはねぇのか…

呆れながらそう呟く声はどこまでも優しく、眠りに就く和希へ、融け込んだ。










おわり
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