TREASURE

□くまちゃん郵便(前編)
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君が松岡先生の甥御さん!?
 凄いなぁ今年の一年生の首席なんだってね。
 学生会に入るか検討中?だったら遠慮なく何でも聞いてよ。
 伊藤先輩なんて呼ばれると照れちゃうけど、あのMVP戦から一年も経ったんだよなぁ。
 そう、俺は途中から転校してきたから面食らうことだらけだったけど、普通の高校と違うこの学園の変わったシステムには驚いたよ。
授業料免除とか食券や教材、学園生活全般に必要なものが支給されるのは有名だけど、実は他にも変わったシステムがいっぱいあるんだ。
 それは入学後のオリエンテーションで学生会から説明された規則と違って噂で知れ渡る不思議なシステムだったり暗黙の了解だったり。
 例えば、この学園の理事長は生徒や教職員にさえ顔と名前を公開しないのには君も驚いたよね?
 だから本当は架空の人物で加賀見副理事の一人二役じゃないかって説まであるけど、こんなのも他の高校では考えられない不思議な噂話だよね。
 えっ?MVP戦後に理事長室に行って何か気づかなかったかと言われても、俺が話したのはスピーカー越しの理事長だったから。  でも俺は副理事の一人二役だとは思わない。
うん、あの時はまだ久我沼だったし二役説はありえないよ。
それでね、変わったシステムの中でも生徒に人気なのが噂の“くまちゃん郵便”なんだ。
 これはね、理事長が随時ある一人の生徒を選んで、その一週間の生活を観察して気づいたことやアドバイスを直筆の手紙でくれる特別なものなんだよ。
 メールの時代に直筆の手紙って嬉しくない?
 内容が同じでも電子メールにないありがたみと暖かみを感じるよね。
 対象にされる生徒の基準は、噂によると何か悩みを抱えてる生徒みたい。
 凄いよ理事長、親しい友人や家族にも打ち明けられない悩み抱えてる生徒を何故察知できるんだろう?
 デリバリーで三年の俊介を知ってる?
 アイツも去年“くまちゃん郵便”で救われたって言ってたしな。
相当深刻な悩みだったらしいけど嘘みたいに解決したって。
以来、俊介は理事長のこと神様みたいに尊敬してる。
この春卒業して医大に行った篠宮さん、伝説の寮長さんだけど、あの人もくまちゃん郵便が来てから弟さんの重い病気の問題が解決して、以来、毎朝どこにいてもサーバー塔に向かって敬礼を捧げてるんだって。 きっと一生続けると思うよ。
俊介や篠宮さんは学園で目立つ人たちだけど、くまちゃん郵便を貰う人は様々で普段目立たない人もたくさんいる。
 貰った人たちの話から推測すると、要は自力で解決不可能な重い悩みを抱えている人が対象みたい。
この学園は秀でた才能を持つプライドが高い個人主義の人ばかりだから、悩みを抱えたまま頑張る生徒が心配で、それで始まった理事長独自のアイデアなんじゃないかな。
 まぁこれは俺も和希から聞いた受け売りだけどさ。 あぁ和希って手芸部二年の遠藤和希、そうそう、あの綺麗な人だよ(笑)
 アレ?そう言えば和希と君って親しく立ち話してる時ない?
 うわっ、君もさっそく和希のファンなんだぁ、でもアイツ恋人いるよ・・・えっ!?
 確かに卒業した王様、丹羽先輩の恋人だけど誰から聞いたの?
クラスメートからって・・・今年の一年生は油断できないね(笑)
 それでくまちゃん郵便だけど、前は当時の会計部長だった西園寺さんから秘かに宛名の生徒に直渡しされてたらしい。
 でも自分も理事長に救われたから報酬無しで責任持って宛名の生徒に届けると俊介が役を買って出てからはアイツが届けてるんだ。 以来、誰にくまちゃん郵便が来てるか俊介は知ってるわけだけど、アイツは通信の守秘義務で誰にも口外しない。
 俊介は理事長秘書さんに呼ばれて手紙を預かるんだって。
 手紙は例の青いくまで厳重に封印されていて差出人の名は学園理事長とだけ書いてある。
うん、受け取った生徒は誰でもドキッとすると思うよ。
 そりゃそうだよね。
顔も名前も知らない理事長なんて雲の上の人から手紙貰ったら不安になるよ。 俺だったら、また退学勧告かよ〜!?とか思うかも、アハハハ、どうせその話も一年生皆が知ってるんだろ?
 俺の場合は当時の副理事に呼び出されたから違うけど、一般生徒が理事会から何か受け取るなんてないからね。
 だからくまちゃん郵便を貰ったことは本人が口外しない限り噂になることはないんだけど、一人だけ例外があったんだ。
 受け取るなり本人が過剰反応したから騒動になっちゃって、今なら笑えるけどあの時は俺も傍で見ててハラハラしっぱなしだったよ。
 その人は何故、過剰反応したかってことだよね。
 まず、その人がくまちゃん郵便を貰うこと自体、周囲も本人も驚いたんだ。
 だってその人は万能の才能を持つ天才肌の人で皆の憧れの的だったし、自力で解決できない悩みがあるようには見えないんだから。 あっ、やっぱわかっちゃったか。 
 そう、学生会長だった丹羽先輩、王様だよ。
 実は王様が手紙を受け取った時、俺と和希、それに当時の副会長の中嶋さんも学生会室にいたんだけど、驚いたのなんの。
 えっ?・・丹羽先輩が学生会室にいたんですかって・・そんなことまで語り継がれちゃってるんだ・・・。
 えっと、まぁ、その時の様子はこんな感じ。 
 放課後、俊介がやってきて

「会長おるん?届け物なんやけど」

「おう、俺ならいるぜ。サル君ご苦労だったな」

「助かったわ、直渡ししたかったんで。ほな受け取りにサインだけお願いしますわ」

「これでいいか。駄賃に食券一枚くらいやるぜ?」

俊介はブンブン頭と手を振ってさ

「めっそうもない、気持だけありがたくいただいときますさかい気遣いは無用ですわ」

 普段がめつい俊介に食券いらないって言われて王様ってば怪訝な顔してね

「ふーん、そっかぁ?まっいいや、んじゃサンキューなサル君」

 そう行って受け取った封筒を裏返して見るなり

「・・・あん!?・・なんだぁ、この馬鹿げたクマ封筒は!?・・しかも理事長からじゃねぇかっ!?アン畜生、ツラも出さなねぇクセしやがって何考えて――」
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