MEGANE

□僕たちは奇跡
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 たかのりくんは、めをうたがいました。

 めのまえに、スーツをきたちいさいこどもが うかんでいます。そう、うかんでいるのです。そのせなかからはえた、まっしろな とりのつばさを はばたかせて。

 さらにおどろいたことに、そのこどもは、どこかかつやくんを ほうふつとさせるのでした。
 いえ、ほうふつとさせる、なんてものではありません。ねんれいこそちがえど、そっくりなのです。しろいはだも、おさないながらも ととのったかおだちも、それにやわらかそうな、うすいいろの かみのけも。
 ただ ぎんいろにひかるめがねと、そのおくのふてきなひとみ、シニカルにゆがめられた くちびるだけが、かつやくんとは べつのそんざいであることを しゅちょうしていました。

「克哉…君のご兄弟か何かか…?」

 かつやくんにつばさのはえたごきょうだいなんて あるわけもありませんが、どうようしていた たかのりくんは、そんなことをくちばしりながら かつやくんにしせんをむけました。

 かつやくんは、あんぐりとくちをひらきながら、ぼうぜんとめがねのこどもをみあげています。

 ふたりをかわるがわるみていたこどもは、にやりとくちもとのえみをふかめ、かつやくんのひざのうえから たまごのからをはらいおとすと、そこにすとん、と おりたちました。
 ちいさなりょうてで かつやくんのほっぺたをはさむと、やおら くちびるをかつやくんのそれに おしつけました。
「ん!んんん〜〜〜っ!!」

 おどろいたのは たかのりくんです。だいじな、かわいいかつやくんが、どこのだれとも しれぬおとこ(ずいぶんとプチサイズではありますが)に、ごういんにくちづけられているのですから!

 おどろきといかりに ひっくりかえりそうになるこえを ひっしになだめ、たかのりくんは、べり、と かつやくんからこどもをひきはがしました。
「どこの子だ!?悪戯にもほどがあるだろう!!」
『子ども相手に大人げないな、御堂さん』

 えりくびをつかまれ、おかあさんいぬにはこばれる あかちゃんいぬのように、だら〜んと たれさがりながら、こどもはくすくすとわらっています。

「き…君は誰だ!何故私を」
『嫌だなぁ、分かりませんか?俺はあんたの大好きな〈オレ〉…「佐伯克哉」ですよ』

 あまりにも いひょうをつくことばに、たかのりくんのてから ちからがぬけてゆきます。
 ゆるんだ それから のがれ、めがねをかけた〈かつや〉くんは、これみよがしに つばさをはためかせてみせました。

『何度かあんたにも会った事がありますが……覚えていませんか?』
「あ……」

 そういわれれば。たしかにみおぼえがあります。
 かつやくんと もうひとり(たかのりくんは、なにかにつけ かつやくんにべたべたくっつきたがる かれのなまえを、くちにしたくもありません)がプロトファイバーのえいぎょうけんの こうしょうにきたときのことを おもいだしました。

 おろおろと たかのりくんともうひとりのやりとりを みまもっていたかれは―――それまでとは たいどをいっぺんさせ、ごうまんなまでに じしんたっぷりなかおをして、ようしゃなく たかのりくんをいいまかしてしまいました。たしかに、そのかおには ぎんいろのフレームのめがねが かけられていた、と きおくしています。

 ……なにしろ、かつやくんに むたいなようきゅうを つきつけ、くるしませた ちょくせつのげんいんになったことなのですから、ほいほいとわすれることなんて できるはずもありません。

 こころのなかに、ふだんはしまいこんでいる にがいものが ひろがってゆきます。

 そんなたかのりくんのようすに きづくよゆうもなく、かつやくんはしばらくのあいだ ぱくぱくとくちをかいへいさせていましたが、ようやく こえをしぼりだしました。
「お…〈俺〉!?何で翼なんか生やしてるんだよ!!」
『さぁな。あいつの趣味なんか知るか』

 君の最大のツッコミどころはそこか?と かるくだつりょくしながらも、たかのりくんは おとなしくふたりをみまもることにしました。



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