小説

□君が。誰よりも何よりも
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今日は良い天気だねぇ…。
そう、のんびりと看護士兼自分の世話役のシズネが淹れてくれた香り高いお茶を楽しみながら、木の葉の森の里長――そして唯一の医師でも有る綱手はぼんやりと思っていた。
珍しい事に本日は病人も怪我人も一人として朝から運び込まれては来ず、朝から診療所の整理整頓などに精が出せた。
お陰で何時もは結構、雑然としたままだった診察室もピカピカになっている。
溜まっていたカルテの整理も記入も全て済ます事が出来たし…何時もは食べたか食べなかったのかも良く分からない昼食も、 ゆったりと楽しめて。
『そういやぁ…伸びていない蕎麦を昼に食べたのなんて何時振りだったかねぇ?』
そんな自分の思考に苦笑して――まぁ、年に数回程度、こんな日も無けりゃあ私も過労死しちまうしねぇ…と、再び湯のみへと手を伸ばす。
丁度――と言って良いべきか否か。入院している患者達も命に関わる症状の者は一人も居らず。
綱手は本当に年に数回のゆったりのんびりした日を過ごしていたのだ。
そう、この時までは。



「綱手様、失礼します」
軽いノックの音の後、ドアカラ顔を覗かせたのは看護士のシズネ。それにぼんやりとしていた思考を元に戻して、綱手は傍らの椅子の背に掛けていた白衣へと手を伸ばす。
「どうした?急患かい?」
「あ…いいえ。お客様が――サスケ君なんですが」
「へぇ…また、そりゃあ珍しい」
今日は本当に滅多に無い珍しい一日らしい…そう、綱手は改めて思う。



木の葉の森の中心にある里より少し外れた奥に、小さな家を構えて暮らしている――この森に暮らす獣人達の中でも、飛び抜けて貴重種な『黒狼』のうちはサスケ。
そんな彼は、何時しか木の葉の森に流れて来た――これ又、貴重種の『金色狐』のうずまきナルトと一緒にその小さな家で過ごしている者だ。
そしてこれは…極一部の者でしか知らない事柄では有るが。
サスケとナルトは互いをきちんと想い合っている…いわゆる恋人同士であったりしている。



ついこの前、ナルトは別の国の前国主の忘れ形見だった――という様な事が判明したばかりだが。
その後も二人は、何も変わらずに相変わらず仲睦まじく(笑)、一緒に居た。
だが、この木の葉の森に流れ着いた時のナルトはまだとても幼くて…綱手はサスケの頼みで、ナルトの保護者というか、後見人の様な地位に着いた。
その当時のナルトときたら――年上の綱手から見て、まぁ愛くるしくて堪らない存在であり、それが尾を引いているのかどうか…いっぱしの『成人』と呼んでも差し支えがなくなった今現在も、綱手はナルトの事を目に入れても痛く無い位に可愛がっている。
それこそ…掌中の珠よろしく、サスケと共に、森一番の実力者である綱手はナルトを比護していた。
だがしかし――そうしてナルトの事を『狼』の手から守っていた筈のサスケが、まさしくその意味と実体のごとく。自ら『狼』となり、ナルトの心と身体を奪ってしまうとは…流石の綱手も思ってもみない事だった。
本来なら。例え、他に類を見ない位貴重種の黒狼のたった一人の存在だとしても――綱手は怒りに任せて半殺し以上の目に合わせていただろう。
実の子を持たない綱手にしたら、ナルトは血を分けた実子の様に可愛がっていた存在なのだから。
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