小説

□さり気なく偉大な君
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団扇サスケは―自分の事を、結構変わっているかも知れないと思っていた。
正直、高校二年の今までただの一度も
『恋愛感情』という物を他人に対して抱いた事が無く…クラスメート達が休み時間などに語っている『誰か可愛い』だの『誰のスタイルが良い』等の会話にも全く興味を覚えない。そのくせ…無駄に顔立ちが整ってたり、成績優秀だったりしているモノだから…言い寄って来る相手は山の様で―勝手な噂だけは尾ヒレ背ビレ付けて飛び回っている状態。
だが―当の本人はそんな事どうでもよく、噂を否定する事すらしていなかった。だから余計に『噂』だけが大きくなっていく。
『団扇サスケは女をとっかえひっかえ』だの、『来るもの拒まず、去るもの追わず』だの…。
今日も今日とて…そのサスケの『とっかえひっかえ』になろうとして、朝のげた箱ラブレター攻撃に始まり、昼休みにお呼び出しも十数件―まぁ、何時もごとくソレは無視される運命だ。
ぼんやりと―それでもその整った顔立ちはそれ位では全く崩れないので…同じクラスの大半の女生徒に『団扇君と同じクラスで良かった』と、喜びを噛み締めさせていた―机に向かいながら。
サスケは自分は本当に他人に惚れる、他人を好きになる事が有るのだろうか?と考えていたりしていた。
それというのも今朝方、兄―大学生の兄、イタチが今日はデートで遅くなるからと出掛けて行き、それを見送った母に
「サスケはデートとかしないの?」と尋ねられたからだ。
否…と否定すると母は「イタチは中学生の頃から女の子と付き合っていたのにねェ」と笑って言われた為。
他人と付き合うってどんな事なんだろう?
第一…恋愛事の『好き』の感情さえ理解していないのに…と、心の中で呟いた。なんだかソンナ事一生理解出来そうに無い。まぁ、でも別に良い。困る事などそうそうないだろうと―サスケはタカを括っていたのだ。
もうすぐ、そんな事全てを吹き飛ばす衝撃に襲われるなんて…想像もしていなかった。



「はい、お早う」
ガラッと扉が開かれて、担任教師が姿を現す。何時も通りの朝のHR。
「えーまず、今朝は転校生を紹介する」ざわっ…とざわめくクラスの中。時期外れも良いトコの転校生の話にクラス中が興味を示している。だけどサスケはそれにも何も感じていなかった。
「まぁ、突然で驚いただろうけど―今までご両親の仕事の都合で外国暮らしだったので、日本の学校はうちが初めてだそうだ。
色々不慣れな事があるだろうけど良くしてやってあげてくれよ。それじゃあ、入って…」
そう…担任教師に促されて教壇に立った一人。
朝の眩しい光が―急に増えた様な気がして、サスケは顔を上げた。
不意に絡んだ視線。そしてサスケの瞳に写し出されたのは―眩しい光を超える笑顔。
「うわ…金髪っ?!」「ひゃ〜本物?えっ、目も青だよ?」
更にざわめくクラスメート達。
ニコニコ笑って、そこに立っていた―金の髪の持ち主。
ぽかんと…サスケはただ見入ってしまう後々、落ち着いて考えたら生まれて初めて―他人を綺麗だと思っている瞬間だった。
「よろしくってば!オレ、渦巻ナルトっ!!」
「渦巻…ナルト…」小さな、本当に小さな声でその告げられた名前を繰り返す。そして自分自身がひどく彼に心惹かれた事を自覚して―サスケは驚いていた。
当然ながらそんな感情を知らなかったから、自分が今、どうなってしまっているのか理解出来ない。ただ―彼の笑っている顔がものすごく深くに、サスケの心の奥深くにするりと滑り込んだ事だけは分かっている。


団扇サスケ―遅い初恋の始まりだった。
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