小説

□ハニーなオマエ、ビターチョコなアイツ・2
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サスケの通う私立高は、ナルトの家の最寄り駅から一区間、その駅から十数分程歩いた所にある。
行った事は無かったけれども…近隣ではかなり有名な名門校だから場所は知っていた。
近づくにつれ―見た事のある風景、見慣れていた光景にナルトは溜め息を付く。様々な制服…中には私服姿の子達もいた―たくさんの女の子達が校門を取り巻く様に立っていて。
ひそひそと仲間数人で交わされている会話。それでも人数が集まっているので、ナルトの耳に彼女達の話は聞こえて来る。
『サスケ君の…』
『サスケ君が…』
どうやら―学校が変わっても例年通り、『今日』という日は変わっていなかったらしい。
バレンタインディーの―サスケに想いを告げる為の女の子達の行動。
ナルトはすっかりそれを失念していた自分に驚いた。そして…おろおろ迷い出す。
『ど、どーしようってば?』
ぎゅっと巻いて来たマフラーを握り締めて…、Jジャンのポケットに突っ込んで来たチョコレートの包みももう片方の手で握り締めてた。
あれだけしっかりと自分の取る行動を決心したはずなのに…目の前の光景に、その決心はすっかり薄らいでしまって。
『サスケ…の家、行った方が良かったってば?』
でも、もし団扇家の人に見つかったら、間違い無く家の中に上げられてしまう。そんな事になったら、なんだか逃げ場がなくって、まともにサスケと向き合えなくなりそうで―その勇気が出ない。
だけど、あの女の子達を掻き分けてサスケに近づく勇気など…もっと出ない。そんな事出来っこ無い。
どうしたら良いのか―ナルトは解らなくなって、もう一度強く、サスケから貰ったマフラーを握り締めた。
その柔らかな温かさにちょっと勇気を貰って…サスケに貰った『言葉』も思い出す。
ナルトは一つ、賭けをする事に決めた。もし…もし、サスケが離れた場所に、こうして立っているだけの自分に気付いてくれたなら―その時は。
きちんと向き合う。決めてきた事を実行しようと。



ざわっ…と、女の子達からざわめきが聞こえて来る。
徐々に大きくなるそれに、自分の考えに沈んでいたナルトもはっと我に返った。「来たわ…!」
「サスケ君よ!!」
ビクッと竦んでしまう。自分でも本当は―気付いて欲しいのか欲しくないのか分からない。だけど勇気を出して…そう、ナルトが思った時だった。
「えーっ?なにっ?!あの女!!」
「なんでサスケ君にくっついてるの?!」「いったい誰っ?!」間違い無く女の子達のざわめきが、怒りを含んでいる事を感じ取ったナルトは、校門の中へと視線を向けてみる。
中には良く見知った長身の姿。だけどその傍らには―サスケの腕に甘える様にしがみ付いて、一緒に歩いて来る見知らぬ女の子の姿も映し出されていた。
「あっ…」
その時、ナルトは気付いてしまった。
―自分はクリスマスの時のあのサスケの言葉を『告白』だと…何の疑いも無く思ってしまった事。
けれどサスケはただ―『お前が好きだ』と言っただけ。それ以上は…何も言わなかったではないか。なのに自分はそれを―サスケのただのあの言葉を、『告白』だと、サスケが恋愛感情の意味でもって自分にその言葉を告げてくれたのだと…信じて疑わなかった。なんの嫌悪も疑問も無く―。
サスケの言葉の本当の意味は―きっと
『友達としての好き』だったのだろう。―勝手に自分が思い違いをしてしまって。
ボロリ…と涙が頬を伝い落ちるのを感じる。
泣きたい気分には何度もなった。でも本当に泣いた事は―サスケに『関係ない』と言われた時から一度もなかったのに。あんなに辛かったはずなのに、一度も泣かなかった。
それなのに今は、こんなに簡単に涙が零れ落ちている。ナルトはそれがどうしてなのか、自分自身でも理解出来なかった。
ただ感じていたのは―今まで以上、何にも増して心が痛いという事。
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