2007・september

《月の裏側》

躰の一部が欠けていく。
小指の爪が、
瞳が、
背中のほくろが、
もうすでに隠されてしまった。
夜の天空からあたしを附け狙う麗しの君。
その蒼にほどけた月光は刃物。
地上と宙のその際で赤く揺らめき誘き寄せ、
あたしを射しては逃げていく。
ほら、
あの夜の頂きで高らかに笑う。
月光に睡魔。
傷口を広げて、
眠り薬に堕ちるあたしの原色の夢だけを盗み出す泥棒。
いつだって、
目醒めた時には無彩色。
月光の反射。
附け狙っては奪い去り、欠けていく恐怖に脅えてあたしを支配する。
今夜、
月の裏側に招待されて。
誰も見ていないから、
誰も見てはいけないから、
隠された躰を拾い集めて、
出鱈目に繋ぎ合わせて悪戯。
裏側だから見られない。
蒼い君とあたし、
咬み千切られた舌は溶けて紫。


《september 月の裏側》
さいとう みさ

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