リボーン短編3

□好きと言ってよ
1ページ/1ページ



 何が起きたのか、よく、分からなかった。

 ただただ目の前に広がるものから目が離せない。

 力が抜けるにしたがって、地面に膝をつく。べチャッと粘着質な水音がした。

 次に聞こえたのはパアン……という銃声。白く立ち上がる硝煙。崩れていく身体を、自分の肩越しに見て、はっと我に返った。


「隼、人……?」


 ぐっという呻きとともに、握られていた銃がカシャンと音を立てた。それはみるみるうちに赤に沈んでいく。

 赤い水溜りの中に先ほどの映像が映りこむ。

 前にいる敵にだけ気を取られ、後ろから銃を向けられていることに気づいていない私。隼人が何かを叫んで、それから銃声が響く。振り向いた私の目に飛び込んだのは、崩れ落ちる隼人。


「嘘……でしょう……?」


 数名の部下が異変に気づいたらしい。慌ただしく周りを蹴散らす。ケータイで連絡を取っている者もいる。応急処置がどうのこうの言っている人もいる。

 そんなこと、どうでもよかった。

 私は隼人の手に触れた。いつも私を抱きしめてくれる温もりはなく、ただただひやりと私の手を握り返した。


「大丈夫……か?」


 掠れて聞き取りづらい声。その声に必死に首を横に振る。大丈夫なんかじゃないわ。だって隼人、こんなにも冷たいじゃない。


「お、お願いよ」


 涙声の私。隼人の唇が動く。だけどもう声は出なくて。そこから漏れてくるのは、ヒューヒューという音だけ。

 急速に落ちていく体温。

 徐々に小さくなっていく呼吸音。

 動かなくなった唇。

 するりと私の手をすり抜けた隼人の手。

 ねえ、隼人。お願い。お願いよ。もう一度、もう一度私に好きと言ってよ。







11/06/16

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ