リボーンCP
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「ねえ、獄寺。君ってさ」
じめじめした雨の降る日。僕はたまった書類を、彼はどこからか分厚い本を持ち出して読んでいた。めずらしく眼鏡までかけ、本格的に読んでいる。
そんな時、はたと思った。
「んー?」
本から顔も上げず、生返事を返した獄寺。僕は眼鏡をはずし、書類を机に置いた。
「君ってさ、ほとんどイタリア人なのに、名前だけ日本人だよね」
前から気になっていた。だって白い肌、銀色の毛髪。さらにエメラルドグリーンの瞳。中性的とも言えるその容姿は、どう見ても日本人とは言いがたい。4分の1は日本の血らしいけど、薄いのだろう。
だからこそ不思議だ。イタリア名でもおかしくないのに、なぜ日本名。しっくりとこなくてもおかしくない名前だけど、彼にはこれしかないとも思えるのだ。
「名前、か?」
そんなこと聞かれるとは露ほども思っていたなかったのだろう。はとが豆鉄砲を食らったようだ。
そのまましばらく僕を見つめた後、眼鏡を外した。
「昔、将来を有望視されていた、日本人とイタリア人のハーフのピアニストがいたんだ」
「は?」
突然、何を言い出すの? そう言えば、獄寺に黙って聞いてろ、と言われてしまった。その言葉通り、僕は口を閉じ、耳を傾けた。
「そのピアニストはそれは綺麗だったんだ。だからあるマフィアのボスが一目惚れした。そして妻子ある身でありながら、強引に口説き落とした」
挙句の果てに子供まで作った。
獄寺はさっきまで読んでいた本をパラパラとめくった。イタリア語だろう言語で書かれたそれの内容は、僕には分からない。
「でも、マフィア界の掟により、正妻以外との子は認められない。だからその子供は本妻との子として扱われ、ピアニストと引き離された」
マフィア界がどうとか、子供を奪われた母親の気持ちだとかは分からない。けど、ひどい話だ。ボスならマフィア界の掟を理解していただろうに。分かっていながらそれを犯すなんて、ね。
「将来も子供も奪われた彼女だけど、年に3回だけ面会が許されていたらしい」
それは神からの救いなのだろうか。はたまた悪魔の戯れなのか。3日間だけでも会える方が幸せなのか、まったく会えない方がいいのか。これまた僕には分からない。
「会えたときは、よくピアノを弾いていたんだ。だけど」
本のページを弄んでいた手がぴたりと止まった。
「ある年からぱたりと来なくなった」
再び手が動き始める。ページをめくったり、撫でたりしている。
「その来なくなった年に、子供は面会場所である城を探検したんだ」
お姉さんが来るのを待ってる間に。そう呟いて、空いている方の手でぐっと握りこぶしを作った。
「ちょうどある部屋に入ったとき……忘れたんだろうな。見つけたんだ。自分の写った写真を」
自分の写真を見つけた子供の顔が思い浮かぶ。なぜだか分からず、きょとんとしていただろう。
「不思議に思ったそいつは写真を手に取ったんだ。それの裏を返した時、目に入った漢字があった。たった4文字の漢字。だけど、幼いそいつには読めなかった。いつ撮られたのか、なんて書かれているのか分からない写真だったけど、そいつはそれを盗ってきちまったんだ」
ふっと息を吐き出す。それからもう一度すった。
「それから何年経ったか……ガキが8歳になったときだったかな」
たまたま城の召使たちの話を聞いちまった。『自分は母さんの本当の子供じゃない。本当は、それはそれは綺麗なピアニストの子供だ。だけどそのピアニストは組織の者に消された』って。
そう言った獄寺の表情は見えない。苦しそうにしているのか。辛そうに歪んでいるのか。それとも無表情なのだろうか。
「それを聞いて、城を飛び出した。今まで溜まってた不満も一気に爆発してな」
その時着ていたズボンにたまたまあの写真が入ってた。素性を隠すのにちょうどいいと使い始めたんだ。写真の裏に書かれた名前を。
その話は僕の胸にすとんと落ちた。ああ、だからか。実の母親がつけた名前。それが獄寺隼人。だから不釣合いなはずの名前なのに、こんなにもぴったりとはまっているのか。
「それをバカみたいに今も使い続けてるんだよ」
獄寺はそう言うと、ぱたんと本を閉じた。
「バカな話だ。未練がましい」
自嘲するように彼は笑う。けど、
「いいんじゃない? 日本にいるのにカタカナだなんておかしいよ」
それに似合ってるんだ。変える必要もない。
「カタカナなんて面倒だ。もしそうだったら、僕は君を好きにならなかったかもしれない」
なんだそりゃ。
困ったように笑う。
「まあ、気に入っちまってんだけどな」
For黎奈さん
お待たせしました!
ヒバ獄で若干シリアス……になってますかね?
ちなみにこのお話は未来に行く前ってことにしておいてください^^;
苦情等は黎奈さんのみどうぞ
これからも追憶をよろしくお願いします!
11/01/30