捧げ物置き場

□あの人の面影
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あの人の面影



「「あ。」」

そう言ったときには、遅かった。





「・・・。」
「ごめんな?大丈夫だったか?」

公園のベンチに座っている、二人。
一人は深い、紫紺の瞳をした青年。

もう一人は・・・翠色の瞳と髪を持った男性だった。

「はい・・・平気です。」
「良かったぁ。」

男性は大きく息を吐き、安心したような表情を向けた。

男性の名前は、ヨハン・アンデルセン。
世界に一枚ずつしか無い、“宝玉獣”の使い手である。

もっとも、今は第一線から退いているが。



先程、ヨハンが道を曲がろうとした時
タイミング良く曲がってきた、この青年。

二人は、盛大にぶつかってしまったのだ。

ヨハンの方は体格が良いこともあり、転びはしなかったが
ぶつかってきた青年は、盛大に尻餅をついた。

しかも、そのせいで
青年がスーパーか何処かで購入していた
品物が零れ、それを慌てて二人でかき集める羽目にまでなった。

全てを回収したヨハンが、
公園で休むと言う結論に達し、現在にいたる。



「・・・あの。」
「ん?」
「もしかして・・・ヨハン、さんですか?」
「ああ、良く分かったな?」

青年は、突然そう言った。
別に隠すことも無いので、ヨハンは笑顔で返す。

・・・青年はヨハンを見続けている。
どう返そうか・・・と、ヨハンは真剣に悩んだ。

この青年は、どうも口数が少ない。
表情もあまり変わらないし、
正直、彼が何を考えているのか、分からなかった。

怒っているのか、悲しいのか
それとも、別の何かなのか。

「いえ・・・変なことを聞いて、すみません。」
「いや。別に変なんて事、ないさ。」

そう返してから、はたと何かが思い浮かんだ。
しかし、それは何も無かったかのようにすぐに消え失せる。

「?」
「・・あ、いや・・・。」

誰だろう、と考えたとき
答えが頭の中に映った。

そう、あの人だ。



「・・・なんか、君。
オレの知ってるヤツに、似てるなって。」
「・・・知り合いに、ですか?」
「ああ。
君と全然別のタイプなんだけどさ。」

そう、全く違うと言って良いほどなのに。



「・・・紅い色の似合う、明るいヤツでさ。
デュエルもすごく強くて、どんな強敵相手でも怯まない。
それでいて、すごくデュエルを楽しそうにする人。」
「・・・その人と、オレが似てる・・・んですか?」
「オレも不思議なんだ・・・本当に。」

目の前にいる青年は、初対面だ。
なのに、何故か彼の話をしてしまった。
今でも、探し続けている彼を。

容姿が似ている訳じゃない。
性格だって、それほど近いとも思えない。

なのに、彼にあの人の面影を、見た。

思いにふけるヨハンの顔を、
再び青年は見つめた。
今度は、その視線にヨハンは気が付かなかった。



「・・・あ、オレそろそろ帰らないと・・・。」

公園の時計を見て、青年は呟く。
ヨハンはそっか、と笑顔を浮かべて返す。

「・・・なんだか、奇遇ですね。」
「?・・・何が?」
「オレも、貴方がオレの知り合いに似ている気がする。」
「知り合い?へぇ、どんなヤツ?」

純粋な、興味だ。
ヨハンが目を輝かせているのを見て、
青年は迷っていたが・・・すぐに口を開いた。

「すごく優しくて・・・頼もしい人です。
どんな時でも、冷静で・・・それでいて、明るい人で。」
「・・・オレが、そんな風に見えるのか?」

ヨハンの顔を、青年は見て話していた。
しかし、それはヨハンの面影から

この青年の言う“知り合い”を見ているにすぎない。
青年の瞳にはきっと、その“知り合い”が映っているのだろう。

夢心地の青年に、ヨハンが言葉を掛けた。

ヨハンの問いによって、青年の瞳が現実に還ってくる。
青年は・・・“ヨハン”を見つめてから、再度口を開いた。

「・・・そう、ですね。
初対面なのに、こんな事を言うのは可笑しいかもれないけど
・・・でも、やっぱり貴方は似ている。」

ちゃんと、ヨハンを見て。
彼は、初めて笑った。

一瞬、心臓が高鳴った気がした。
何故?



あまりに、その笑顔が彼に似ていて。
目の前に、あの人がいるような気がしてしまったから。



「・・・ヨハン、さん?」
「あ!いや・・・何でもない。気をつけて、帰れよ?」
「ありがとうございます。ヨハンさんも・・・お元気で。」

青年は、そのまま振り返らずに去っていった。
ヨハンはその背を見送ると、自分もベンチから立ち去った。


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