Secret Garden  捧げ物と戴き物

□Garden
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けれど口調だけは冷めたものを装って太裳はごくさりげなく自分の肩にかけられた成親の手をやんわりとほどいた。
「ご命令故。」
「ふぅん。」
冷めた口調で命令遵守を告げ、同時に自分の手を振りほどいた太裳に成親は少しだけ傷ついたような表情をしてみせた。だがそれも一瞬で彼は感心したような、しないような相槌を打って己から見れば拗ねているように見える、手を振りほどきはしたもののまだ隠形しない太裳の今度は腕を捕まえる。そのまま彼を引き寄せて抱きすくめた。真逆いきなり引き寄せられるとは思っていなかったらしい太裳はあっけなく成親の腕に転げ落ちる。その彼の背中に両手を回し、成親は彼の香りを楽しむようにその鮮やかな青磁の髪に唇を寄せた。
「よし、捕まえた。」
「成親様っ お戯れを!」
「大きな声を出すな、太裳。昌浩に見つかる。」
抱きすくめた太裳を狩衣の袖に包み(くるみ)こんでしまい成親は焦ったように自分の腕の中でじたばたとあばれる太裳の耳元で囁く。その時にほんの少しだが耳たぶに口づけてやると暴れていた太裳の躰がぴたりと硬直したように動かなくなった。屋形の方から又、子供の甲高い声が近づいてくる。成親の言うとうり、昌浩が見つからない兄達を探して再び戻ってきたのだろう。太裳は一瞬硬直したものの、再び成親の腕の中で藻掻いて彼に背を向ける事には成功する。太裳的にこのまま成親の思いどうりにされるのは、癪なのだ。喩え自分の躰が彼の温もりと香りを心地よいと感じていてもそれを見破られるのも何となく悔しいのである。そんな事を思っていても、今のところ全敗中なのだが。太裳が自分に背を向けてしまうと成親は彼には見えていないものの、やや呆れたような表情(かお)をして、何だか絶対拗ねているに違いない、成親としては〈恋人〉と思っている彼をこれ以上逃がさないように、怒らせないようにそっと狩衣の袖で包み直してしまう。彼の半ば髪に隠されている耳元で静かに囁いた。
「何を拗ねている?」
「拗ねてなどおりません。拗ねておいでなのは貴男様でしょう?」
「まぁ、俺は拗ねて当然だな。何せお前がいなかった。」
「成親様? んっ…」
何の躊躇いも恥じらいもなく堂々と、成親は太裳に自分の傍に彼がいなかったから拗ねたと公言して腕の中の太裳の顔に片手を回す。そんな風に顎の辺りから頬にかけて腕を回された太裳がその顔を動かせる方向、即ち成親が回してきた腕の方に向け、振り返れば待ち構えていた成親の唇が太裳のそれを捕らえて塞いだ。
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