Secret Garden  捧げ物と戴き物

□Garden
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その幼児が心配でならない、とでも言うかのようにその緋色の鬼神は昌浩の後を付かず離れずで歩いていった。かなり長身の彼が小さな昌浩の歩幅に合わせてやる様は傍目から見てかなり微笑ましい光景でもある。二人を柏の影から見守っていた成親と隠形したままの太裳は期せずして同時にくすりと笑った。
「あの騰蛇がねぇ…可愛いもんだ。ところで太裳、いい加減出てこい。」
ーあの、伝言をお伝えするだけなのですが。ー
「つれない事を言うな。お前の姿が見えなければ寂しいだろうが?」
俺は一人で隠れているんだぞ、とでも言いたげに見えてはいないが太裳の佇んでいるらしき場所に視線を移して成親が屁理屈を捏ねる。屁理屈と言うより我が儘。成親が末弟と緋色の鬼神から可憐な小花が群れ咲いている場所に視線を移してニ〜三瞬きをする内に溜息を付く気配がして空間が僅かに揺らめき、開いてそこに白い長衣を纏った太裳の見慣れた姿が顕れる。彼は長い袖の中に包まれたままの両の手をそのまま軽く捧げるように上げて成親に会釈する。その身に纏う衣裳に似合った大陸風の挨拶である。口元には穏やかな微笑を浮かべている彼は挨拶の後に自分を見つめたままの成親に二〜三歩近づいた。
「一瞥以来にて、成親様。それで。」
「全くだ。お前は何時まで俺を放っておく気だ?」
「は?あの、私は。」
「お前は俺の守将だろうが、何で異界になど籠もっている?」
無茶が通れば道理引っ込む。時代的にはこの言葉遊びはまだ無いのだがご容赦を。太裳は至極当然のように自分を個人的な〈守将〉にしている成親に僅かに苦笑させられる。確かに彼とそのすぐ下の弟昌親の面倒をみたのは自分と他何神かの仲間であるし、特に成親とは恋人とも愛人ともつかぬ関係を太裳は続けているのだが…寂しいと言われるのならまだしも〈守将〉とだけ言い切られるのも太裳としては業腹だ。恋人として残ってくれと言うのなら考えようもするものの、便利な護衛役についでに伽を申し付けるような気楽さでいられるのなら御免だと意識的に顔つきを厳しくして成親の我儘を流した。
「晴明様がお呼びです。何やら昌親様共々お話がおありだそうです。」
それでは私はこれで、とばかりに太裳は成親に軽く一礼して背を向ける。折角顕現したと言うのに又隠形しようとした。
「昌親のところへ行くのか?」
妙に淋しく見えるその背の肩を成親は掴んで太裳の隠形を止める。太裳が振り返ってその紫苑の瞳で成親の烏羽色のそれを訝し気に、だが何処か拗ねたような光を浮かべ、見つめる。
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