Secret Garden  捧げ物と戴き物

□☆ HOLLYNIGHT KISS
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勿論青龍もそれに両手を上げて賛同する。間違ってすれ違ったとしても知らぬ振りを通して貰いたいものだと。それが大人の恋人同士の暗黙のルールだろう。
「寒いのか?」
かなり身勝手な心狭いと言われそうな考えを脳内展開していた青龍だったが表向きは何時もどうりの何処か不機嫌そうな表情だ。だが恋人六合を見つめるその青玉(サファイア)の瞳には氷の冷たさより水の温もりが宿っている。元より水は見る者によって、在る場所によって姿を変えるものなれば彼、青龍を凍土の溶けない氷雪のようだと見るか、夏の最中(さなか)の激しいが恵みの雷雨と感じるかはその人個人の感性と対象に向けられる青龍の態度によるものだろう。彼は中々好悪の情がはっきりしているタイプであったから、それはそれで仕方が無い事とも言える。
万人に好かれる者などまずいないし、青龍にもそんな風に誰にでも好かれようという気は微塵も無いだろう。彼は寒そうに身を竦める恋人をさりげなく抱き寄せながら彼を暖められるような場所を探した。
今、二人がいるのは今年都内にオープンしたばかりの大型ショッピングモールである。雑誌やテレビでも既に何度も取り上げられているほどの所謂<新名所>で情報通の太裳のお薦め場所の一つでもあった。冷えた躰を手っ取り早く暖める事の出来る場所と飲み物を提供してくれるファーストフードから一見さんお断りの一流レストランまでこのさして大きくも無いモール、ビルには揃っているはずだ。勿論他にもファッションや雑貨を扱う店やドラッグストア、コンビニまでもあるはすなのだが。
「あれ、宵藍。」
白と青に彩られた木々と街並みを抜けてやや足早にそのショッピングモールに入った二人だったが、割と素直に青龍に寄り掛かっていた六合が短く彼に呼びかけて前方左側を指差す。其処には純白の巨大なツリーが暗くなり始めた藍色の空の下に聳えていた。外のデコレーションと併せているのだろう、純白に濃い青、縁だけが金の幅広のリボンをシンメトリーに飾られたそれは絶妙なライトアップによって夜空に溶け込んでいきながらもその存在を華やかに誇示している。そのツリーが設置されている広場に小さくも煩くもないボリュームで流れるゴスペルが家族連れや子供向きでは無い、大人の恋人達向きのクリスマスを演出していた。
その美しくも圧倒的な純白のクリスマスに魅せられたのは六合と、彼にそれを教えられた青龍だけではなく、彼らの周囲にいる同じ街路を歩んできたらしい者達も、溜息を洩らし小さな歓声をあげて誰にも平等に贈られたそのクリスマスプレゼントに魅入っていた。
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