Secret Garden  捧げ物と戴き物

□乱心作品
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週末の夜。
帰宅した成親はそれは上機嫌だった。何時ものように彼を出迎えた太裳は、てっきり何処かで一杯、いやいや相当きこし召してきたのかと、そうでなければ頭を強く打ったのではないかと疑ってしまうくらいに成親のテンションは異常に高かった。そのまま「ちゃららっちゃちゃらら〜♪」とかキャラに似合わないギャグを飛ばされたらどうしましょう、右から左へ受け流すしかないのでしょうか、と考えてしまった太裳はもはや神将と言うより、テレビ好きな専業主婦と評しても良いだろう。
この似た者夫婦が!!(あれ?
夕食を食べている間も成親は妙にウキウキしているように太裳には見えた。何か、ある。その頃になると流石に似たもの夫婦嫁、いや成親の守護将として長い太裳は、頭にお花が咲いている状態の彼に警戒を強めた。 
絶対に、成親は何か企んでいる。それも確実に自分にとっては有り難くない事柄だ。そう、昔から彼が妙に浮かれて見える時は注意が必要だったのだ。
思えば隠形させられて、御近所の柿泥棒をやらされたのが始まりでしたねぇ。あの時も成親様は妙にウキウキそわそわなさっていて「たいじょー すっごい良いこと考えたんだ!」と目を輝かせて仰いました。ちっとも良い事ではありませんでしたが。私、窃盗犯ですから。しかも、その家の番犬の勘が良くて追いかけまわされましたから。これでも随分長く生きておりますが、犬相手に結界を張ったのはあれが最初でした。出来れば最後にしたいです。
それからも成親様がこのような状態になる時は何時も何時も碌な事がありませんでした。避けたいです、何だか分かりませんが、出来うるなら避けたいです。嗚呼 今すぐ異界へ戻って良いですか?それが許されなければ召喚して下さい、晴明様。
天 その願いを聞き届け 賜わず。
向かい合って食事を摂りながら、当たり障り無い会話を交わしていた太裳が遠い昔の苦い記憶を掘り起こし、尚且つこれからの自分を警戒していた事など、変わらず上機嫌の成親は全く気付きはせんかった。
食後、成親を風呂に送り出した太裳は少しだけ肩の力を抜いた。良かった、今日は何も無さそうだと、洗い物をしながらやれやれと溜息を付く。風呂に入る前に彼が何時も通勤時に使っているバッグの中身を、がさがさと漁っていたのだけは気にかかったが、自分にはノーリアクションだったので太裳はその些末な出来事を記憶からデリートしようと思っていた。
彼が風呂から上がる直前に良く冷えた瓶ビールと、同じく冷蔵庫で冷やしていたビアグラスを出してくる。それが日常化している故に、太裳の動きに全く澱みは無い、無いがお前は何処の世話焼き女房だ?ラフなシャツにコットンパンツ、とどめにキャラ物のエプロンをかけたスタイルのお前を見ても、誰も神様だとは思うまい。あぁ 思うまいともさ。
この尽くし上手な若奥様が。
「太裳。」
「あ、成親様。おあがり ひっ!」
嫁太裳がビールを冷蔵庫から出して栓を抜いた瞬間に、何時ものタイミングで旦那様成親が声をかけてくる。良い感じ、と太裳が余裕を持てたのは其処までだった。
視線を転じ、笑顔で彼を迎えようとした太裳の表情が、見る見る固く強ばっていく。彼の手から滑った栓抜きが、フローリングの床に落ちて乾いた音を立てた。
風呂から上がった成親は全裸、なら太裳も此処まで驚くまい。それくらいで驚いていてはクセの強い成親の嫁は勤まらない。大体それは良くあることだ。(はい?
風呂上がりの成親は何ともキテレツな格好をしていた。素肌の上に青いエプロンを付けている。隅々にたっぷりしたレース縁どり付き。しかも胸当てにあたる部分がハート型。丈はかなり短い。更に恐ろしい事にそのエプロンはオーガンジーのような透ける素材で出来ていて、成親の躰のラインがはっきり浮き出していた。その上サイズが小さいらしく色んなところがはみ出している。全てにおいて見たくない部分が丸見えだ。可愛いお姉さんがしているそれなら大歓迎だろうが、どちらかと言えば男らしい容姿の成親のそのスタイルは目にも心にも痛い、痛過ぎる凶器以外の何物でも無かった。唖然として立ち尽くす太裳に、成親はあの、妙にご機嫌な笑顔で言う。
「どーだ。たまにはこんな趣向も面白いだろう?うん、驚いてるな、成功成功。大丈夫だぞ〜太裳。ちゃんとお前の分もあるからな?俺のとお揃いで色はピンクだ。」
これか!
太裳はしごく楽しそうな成親の言葉に総身から力が抜けて、床にがっくりと膝を付く。そのまま両手をついてうなだれた。嫌な予感はこれだったのか!私は、私はこの方の育て方を間違ったのでしょうか?教えて下さい、翁、晴明様…。
「太裳?」
そんな太裳に全く悪怯れた様子の無い成親が近寄ってくる。呼びかけられた太裳は弱々しく顔を上げた。
「成親様。」
「ん?」
「せめて、脛毛は剃って下さい…」
天然太裳(色んな意味で )違うだろ?


オワタ

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