Secret Garden  捧げ物と戴き物

□☆ HOLLYNIGHT KISS
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古えの聖人が殉教した日でも 生誕した日でも 更に遡って今は名も無き神が崇められた日であろうとも そんな事は大した問題では無い。今、君が隣にいる。その奇蹟に勝る事実は何一つ無いのだ。

キャンドルの光 道行く人に清らかに鐘が鳴る。
「残念だが。」
ふと、空を見上げるような仕草をして六合は琥珀色の瞳をほんの少し細めて言った。
「雪は降らないようだな。」
「雪の降る場所が良かったか?彩輝。」
「いや。」
色取りどりに輝く街のイルミネイション 溢れかえるクリスマスソングの洪水 人 人 老若男女全ての人の波。駅に向かう者、それとは逆に駅から離れて行く者。共通しているのは一人きりで歩いているものは皆比較的早足で、連れが居る者の歩調はゆっくりだという事だ。皆バラバラに目的地へ向かっている、聖夜。
六合は泣きだしそうな空から視線を傍らを歩く自分の恋人に戻した。
「お前と一緒なら何処でも良い。宵藍。」
六合の軽く纏められただけの長い髪がビルの合間を我が物顔に駆け回る突風に弄ばれる。それを反射的に押さえながら淡く微笑んだ恋人の見慣れたはずの綺麗な笑顔に青龍はらしくもなく少し狼狽えて出来るだけそれを悟られないように素っ気なく同意してみせた。
「俺もだ。」
自分も乱暴なビル風に吹き流される髪を押さえながら。
この季節ひどく寒々しく感じる落葉樹の裸の幹と枝も今宵ばかりは聖夜を彩る灯火に代わる。その色合いは街々や店舗によって異なったが、今青龍と六合が歩いている街のデコレーションは主に白と青によって統一されていた。白いクリスマスツリーにグラデーションの異なる青のリボンを幾重にも飾りつけ、アクセントには銀のオーナメントを使用したり、雪の六花を型どったものに濃い青の花が置かれたりしている。元々その手のお洒落な街並みや遊び場所には少々縁遠い青龍が都内でも有数のデートスポットに自分と同じくらいその手の事には疎い六合と共に訪れる事が出来たのには、二人の同僚で彼女持ちの為かデートコースには詳しい朱雀や同じく彼女持ちで生来気配り体質なのか下調べを怠らない太裳などからの情報提供のお陰である事が大きい。まぁ、だからこそ彼らと遭遇する事はあるまいと青龍はビル風に少し寒そうに身を縮めている恋人の肩に軽く手を回してそう結論づける。子供ではあるまいし折角のイベントデイに他のカップルと同行したくはないだろう。青龍からしてみてもそれは遠慮したい状態だ。ならば付き合って長い朱雀達や或る意味恐ろしく機転の効く太裳が自分達と同じデートコースを選ぶはずが無い、そう思えたからである。誰だって恋人との甘い時間を邪魔されるのは嫌だろう。
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