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□一夜の哀情
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洗濯機が終了の音を立てる。

それに気付いて、パタパタと洗濯機に向かう。
かごの何に洗濯物を入れて外へ持って行く。
バサッと皺を伸ばし、一枚ずつ丁寧に干していく。
だが、二人分なのでそれほどの量もない。


昼過ぎには大抵やることは終わっている。
リビングのソファーに座ってテレビを見ていたが、時間が過ぎるのがあまりにも遅い。
いつもならすぐに夕飯の準備を始める時間になるのに。
ピッ、とテレビの電源を落とし部屋から数冊の文庫本を持ってきた。
二冊目の半分ほど読み終わった時にやっと夕飯を準備する時間になった。


勾陣は夕飯の準備をするために近くのスーパーに向かった。

その際に今日初めて、たった一行のメールを送ってみた。

『今、何してる?』

それに返信があったのは夕飯が終わった時だった。

勾陣の携帯が無機質な音を立てる。どうやら電話のようだ。

「はい」
「俺だ」

聞こえてきたのは、訊きたくて堪らなかった声。

「知ってる、それくらい」
「そーかい。飯、終わったか?」
「ああ」
「俺もさっきホテルの飯食ったんだけど、やっぱ勾のが美味いわ」
「…そ、そうか。ありがとう」

なんのてらいもなく、さらっと言えるのはひどく感服する。
自分もそれくらい言えたならどれだけ良いか。

だったら、今日くらい良いかもしれない。
だって今日は電話越しで顔を合わせる事はないのだから。

「…なぁ、騰蛇」
「ん?」

静かに続きを促す声は、どこまでも優しい。

「何時、帰って来る?」

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