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□日常のとある場所
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定時に仕事を終えた匂陣は駅に向かって歩いていた。

駅の手前にあるスクランブル交差点で前方に見知った影を見つけた。

「六合?」

ついこないだの異動で同じ部署にやって来た寡黙な男だ。
顔は良いし、器用である。
尚且つ気が利いて優しいときた!
と同僚の女性たちが話しているのを聞いた覚えがある。
だが、匂陣は「他人には無関心は奴だ」と踏んでいる。

「匂陣?」
「今帰りか?」

匂陣が会社を出たときは確かデスクに向かって書類と格闘していたはずだが。

「いや、今日は残業だ」

ということは少し早いが軽い物を食べに出てきたのだろう。

「匂陣もどうだ?奢るぞ」
「悪くないか?」

これが隣人に住む幼馴染だったら「当然だ」と告げただろう。

「あぁ。俺だってそれなりに稼いでいるんだ。心配されるまでもない」

その言にクツリ、と喉の奥で声が漏れる。

「そうか。ではご馳走になるよ」



二人で入ったのはそれほど高い店ではないが、品揃えが多くおいしいと評判の店だ。

会社から近いこともあり、昼時には混雑しているが今は微妙な時間帯のせいか空いていた。

「まさかお前から誘われるとは思わなかったよ」頼んだ料理が来るまでの時間は在り来たりな話をした。

「そうだな。誘った俺も意外だった」

「なら何故誘った?」などという無粋な真似はしない。
きっとそんな理由、六合だってしらないだろう。

 おまたせしました。

店員がトレーに二種類の料理を乗せて現われた。



それから時計の短針が一つ時を刻んだ辺りでお開きになった。

「ありがとうな。これで夕飯の支度をせずに済んだ」

帰り際、駅の近くまで見送ってくれた六合に冗談を含めて言った。
もちろん六合だってそれくらい分かっているので、「なら良かった」と返しただけだ。

六合と別れた時に時計を見たら、発車までにあまり時間がなかったので、匂陣は息が乱れない程度に駆け出した。

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