物語
□幸せの時間(トキ)
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「騰蛇?」
騰蛇の機嫌が目に見えて悪い。何かあったのだろうか。
「勾。ヘラヘラして、そんなに嬉しかったか?」
騰蛇の言う『ヘラヘラ』とはただの苦笑いだったのだが。勾陣が男共に囲まれているのを見て頭に血が上っていては気付くものも気付けない。
「あんな男共に囲まれて、笑って楽しかったか?」
この一言が普段冷静な勾陣の怒りをかった。
パン!
その音は余韻を残し、消えていく。
いっそ清々しいほどに勾陣は騰蛇に平手打ちを食らわした。
「っ…何すんだ!」
「それは此方の台詞だ。お前は本気で言っているのか?」
語尾が弱々しくなる。
沈黙の肯定。とはよく言うが、これは否定だ。顔が否定と告げている。
その様子に勾陣は溜め息をつく。
「―まったく、ヤキモチならヤキモチと最初からそう言え。」
「なっ!!」
図星を突かれ、顔を真っ赤にしながら反論しようとするが、勾陣が許すはずがない。
「違うのか?」
勾陣は面白そうに笑みを浮かべ尋ねる。
「―――もういい。それより、こ「慧斗だ」」
たっぷり間を置いた騰蛇の言葉に勾陣のそれが重なる。
「はっ?……ああ。なら紅蓮と呼べ。慧斗」
一瞬何を言われたのかと怪訝そうな顔をしたが、すぐに納得したようだ。
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