書籍
□赤薔薇<レッドローズ>
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太陰の言った通り雲行きが怪しくなってきた頃、コンパスと定規と地図と睨み合っていた男が顔を上げた。
「船長」
向かいの椅子で本を読んでいた紅蓮が顔を上げ、地図を覗き込んだ。
「決まったか」
「えぇ、一応。この場所からでしたらここの島が一番近いんですけど」
「ならそこで良いじゃないか。問題があるのか?」
「この島に行くには、この海域を通らなければいけません。しかしこの海域は」
「“青薔薇”の直轄地」
「ご存知ですか」
「当たり前だ」
「なら、」
「“赤薔薇<レッドローズ>”を舐めるな。それに今日は、休戦日だ」
その目には、誰も逆らえない鋭さがある。いくつもの死線を潜り抜けた者の光だ。
「…分かりました。では、そのように伝えて来ます」
音をたてずに立ち上がると、太裳は自室を後にした。
それと入れ替わるように、太陰がやって来た。
「紅蓮、勾陣が呼んでるわよ」
「は?お前、パシられたのか?」
「だって分からないって言うし、この船広いから迷われたら迷惑なのよ」
どうせ探すのも私なんでしょ!太陰はプイッと頬を膨らませて、そっぽを向いた。
「まぁそう怒るな」
「大体何で拾ってきたのよ。紅蓮は時々分からない」
「何となくだ。何となく」
紅蓮は意味深な笑みを残して、勾陣の部屋にと向かって行った。
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