図書
□love triangle
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結局一言も交わさぬまま、本宮の境内についてしまった。
さらに奥──船形岩まで足を進めると凄絶な神気と共に空に龍が現れ、人身を取って岩に降り立った。
物の怪は、瞬きひとつで本性に成り代わると仮の姿とは違う、低い声でその名を呼んだ。
「たかおかみの神…」
「十二神将か。何用だ?」
厳かに口を開いた貴船の祭神に、紅蓮は怯まず問う。
「訊くたいことがある」
「ほぅ?」
水神の反応を待ってから紅蓮は再度口を開く。
が、たかおかみの神は片手をあげてそれを制した。
「察しはついている。…が、それにタダで答えろと?」
「何?」
たかおかみの神の言葉に紅蓮は面食らう。
後ろで二人のやりとりをきいていた勾陣の目が剣呑に細められた。
それに気付きながら、祭神は誘うように妖艶に笑む。
「何事にも対価が必要だろう?」
「…;」
このくそ女神。
人の弱みにつけこみやがって。
近くにくるよう促され、紅蓮は眉を寄せてしばし思案したが、結局は腹を括って側に移動した。
「何をすれば?」
何を言われるのかと怯えながらも、努めて真摯に問うと。
不意に、女神が微笑んだ。
瞬間、その美しさに見とれた紅蓮の腕を、白い指が掴んで引き寄せる。
体勢を崩して、視界が紫色にうめ尽くされた。
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