図書
□君に贈る御歌
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01 闇を照らす光となれ
10年と少し前。
安部家に産まれた嬰児は、凶将騰蛇に笑顔を見せた。
「のぅ紅蓮。この子はわしの後継じゃ」
茵の中ですやすや眠る嬰児を見つめながら、老人は片胡座をかいた神将に告げた。
「当たり前だ」
紅蓮と呼ばれた神将は、さも当然の事の様に頷いた。
「良かったのぅ」
老人は本当に嬉しそうに微笑みながら嬰児の頭を撫でた。
いつかお前も"紅蓮"と呼んでおやり。
畏怖の響きを持ってしまった"騰蛇"ではなく。
蔀から覗く庭には、穏やかな風が吹き抜けていた。
「なぁ、昌浩」
それは闇を照らす少年の名。
End.