書音

□恋の始まり
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勾陣は二人を見送ると、そのまま武道場に向かった。
校舎から離されたその武道場からは、威勢の良い掛け声が聞こえていた。
勾陣は、開いていた扉から中へと入った。

踏み込んだ足音と、竹刀のぶつかる音が数回続いて、片方の竹刀が、相手の胴に決まった。
審判を務めていた男が、制止の声を掛けこの試合は終わった。

防具を取って、汗を拭いた男は、一人の観客が居ることに気付いた。

「来てたのか、勾」
「あぁ。もう少し手加減してやったらどうだ?騰蛇」

騰蛇、勾陣の幼馴染みである。

「手加減したら、部が成長しない」

確かに。
騰蛇の言にも一理ある。

「そうか。今のでもう終わりか?」
「ん。着替えて来るからもうちょい待ってろ」

騰蛇は、勾陣の足元にあった自分のカバンを持って奥へと消えた。


それからしばらくして、制服を着た騰蛇が戻ってきた。

「悪い、待たせた」
「別に待ってない」

冷たく聞こえるが、表情がそれを裏切っているので、問題ではない。
二人が校門へ歩き出した頃には、日も沈み始めており二つの影が長く伸びた。

「今日、待っててくれてありがとな」

帰路を歩き初めてしばらくすると、騰蛇の方が口を開いた。

「お前が待っていろと言ったんだろ?」

勾陣はおかしそうに笑うと、ああまぁ…なと歯切れの悪い返事が返ってきた。
どうしたのだろと覗き込めば、その真剣な目付きに息を呑んだ。

「なぁ、勾」

騰蛇は完全に足を止め、身体ごと勾陣に向き直った。
大切な話なのだろうと判断した勾陣もそれにならう。

「勾、俺はお前とずっと一緒に居たい」

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