書音

□相合傘
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彰子は傘を開くと、昌浩を招き入れた。

「ごめんね。ありがとう」

といっても、昌浩のが僅かばかり背が高い。
彰子は傘が昌浩の邪魔にならないように少し上に上げた。
それに気付いた昌浩が、彰子から傘を取り上げた。

「昌浩?」
「俺が持つよ。入れてもらってるんだし」

昌浩がにこりと笑うと、彰子は頬を染めて俯いた。

「昌浩、濡れない?」
「大丈夫だよ。それにほら、元から俺濡れてたし」

昌浩の言葉を訊きながら、彰子は角を曲がった。

「え、彰子の家、今の所真っ直ぐじゃ…」

それにこっちは。

「昌浩、このままじゃ風邪引くから、先に昌浩の家行く」
「良いよ、それに雨だし暗いし、彰子も風邪引くぞ。このまま送ってくから」
「ダメよ。私が心配だもの。それじゃダメ?」

思わず足を止めて小さな言い合いになってしまったが、昌浩は苦笑すると、頷いた。

「ありがとう、心配してくれて。帰りは迎えに来てもらいな。ダメだったら俺が送るよ」
「ありがとう。昌浩」

止めていた足を動かし、安倍家へ向かう。
今日の夕飯当番は確か紅蓮だ。濡れて寒いから、紅蓮の煮込み料理はありがたい。
昌浩の中で、今日彰子が安倍家で夕飯を食べることは既に決定事項であり、となれば早く帰ってそれを紅蓮に伝えなくてはならない。
その思いで昌浩の足は早くなるが、彰子の歩調を乱さないように気をつかいながら家までの道のりを歩くのだった。

今日夕飯食べてくだろ?

この台詞を言うために。


End.
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