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□それは想い故に
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朝日が昇り、人が現れる。




万屋である「桔梗屋」の一室の障子戸の前に膝を着いている男の姿。

「…勾?」

呼び掛けて見たものの、中の人物が出てくる様子はない。
はぁ、とため息をつくと手を伸ばし障子戸を僅かに開けた。

「勾」

もう一度呼んでみるが、出てこない。

『二回呼んで駄目なら入って良いわ』と言われているのを思い出した。

立ち上がり、先程開けた隙間に指を入れ戸を開く。
そこには気持ち良さそうに眠る女性の姿が。
その女性に近寄り肩を揺らす。

「もう朝だ。起きろ」
「ん、…」

うっすらと開けた視界にざんばらの髪が写った。

「──…騰蛇?」
「あぁ、おはよう。勾」

おはよう、と起き上がった勾陣の姿に騰蛇は目を覆った。
それを怪訝な顔で見上げてくる勾陣に、騰蛇はわざとらしく息を吐き出すと指差した。

「帷子(かたびら)、乱れてるぞ」
「すまん」

軽く詫び、乱れていた胸元を直す。
それから立ち上がると本日の着物を箪笥から取り出した。

「すぐに行く」
「ああ」

騰蛇は入って来た障子戸をぱたん、と閉め部屋を後にした。


昼間の宿場は賑やかだ。
店番をしている騰蛇もそれなりに忙しい。
柱に背を預けていた騰蛇のところへ勾陣がやって来た。

「なぁ騰蛇。昼は空いているか?」

騰蛇は客を見ているし、勾陣も同じように横で客を見ている。

「ああ。と言っても人の波が過ぎたらの話だがな」
「そうか。分かった」

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