書架
□日常のとある場所
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朝。
いつもの同じ時間、駅前のコンビニで出会う人。
男のくせに長い髪を無造作に括っている人。
互いに顔は知っている、という程度である。会話などは皆無だ。
本日の昼食を買った匂陣はイヤホンをしていて周りの音が聞こえていない。
まぁ聞こえていなくても問題がないのだが。
…ぃ。
「おい」
ちょうどコンビにのドアをくぐった時、どすの効いた低い声が響いた。
それと同時に背後からイヤホンが引き抜かれた。
「ちょっ…!」
急な出来事に対応しきれなかった匂陣は背後を振り返る。
驚いた。
あいつだった。
不機嫌を隠そうともせず、盛大に眉間にしわが寄っている。
「何、ですか?」
他人に対して慣れない敬語を使う。
「イヤホンをしたまま外に出たら危ないぞ」
言うだけ言って、自分はさっさと行ってしまう。
その行動の意味が理解出来なくて内心首を傾げる。
どういう意味だろうか?
たぶん本当にそのままの意味なのだろうが、それを信じれるだけのものがない。
取り敢えず鞄から音楽プレイヤーを取り出すと電源を切り、イヤホンも外した。
確かに音が聞こえないというには危ない。現に先ほど彼の存在に気づかなかった。
匂陣は鞄を肩にかけ直し、歩き出した。
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