書架

□愛したあなたは
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小さな村だ。
煉瓦の外壁が綺麗な村。


この村の外れに暮らす勾陣は、最近になって家を留守にすることが多くなった。


「毎日毎日、どこに行ってるの?」

心配していた天后が小さなテーブルの反対側で紅茶を啜った。
「今日こそはぐらかさないで下さいね」カップの縁から上目遣いで見上げる。

「別にはぐらかしてなどいない」

天后に出したのと同じ(だがストレート)紅茶に勾陣も手を伸ばす。

「それが嘘だって事くらい、私にも分かるわ」
「…仕方ないな」

ことりとカップをテーブルに置いた。

「街へ行っているんだ。──引っ越そうと思って」

だからだ、と静かに目を閉じた。

目を開けるのが怖い。
きっと、「どうして?」と悲しそうな顔で尋ねられるから。

「…、そう。見つかったの?探してる人」

だが、返ってきたのは予想外の言葉だった。
驚いて目を開けた先に映ったのは、微笑を浮かべる親友の姿。

「いや、見つかってはいないよ。だが必ず見つける」
「庭のお手入れはやっておくわね。いつでも帰って来られるように」

ここから見える庭には沢山の花が植えられている。
その中でも一際薔薇の割合が多い。

「そうか。頼むよ」

立ち上がり、ガラス越しに見えていた庭に足を踏み出す。
「これは私からの餞別だ」そう言って一番綺麗に咲いていた花を差し出した。

「ありがとうございます。勾陣」

にっこり微笑む天后につられて唇が弧を描く。

「ああ、やはりお前には花が似合うな」


これが村を出る前日の話。

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