書架
□旅行先の僅かな時間
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安倍家の旅行に、彰子はたいがい随行する。
そして今回も例外なく彰子は居た。
小学校までは昌浩と同じ部屋だったが、中学に上がった時から神将の女性人と同室だ。
「彰子嬢。先に風呂使ったらどうだ?」
「ありがとう。勾陣」
勾陣に勧められ彰子は荷物を持って浴室に向かった。
今回泊まったのはホテルで、勾陣と彰子、昌浩と紅蓮が同室だ(その他いろいろは省略)。
彰子が浴室に入って十五分ほどして、控え目に扉がノックされた。
読んでいた本をベッドの上に置き扉を開けた。
そこに居たのは。
「太陰に天后じゃないか。どうした?」
浴衣姿の太陰と天后を招き入れた。
「特に用事って訳じゃないけど遊びに来たの」と太陰は先程勾陣が本を置いたベッドの上に座った。
「太陰一人はどうかと思って。勾陣の所なら、って私も来たの。迷惑だった?」
いや、と首を振って返す。
それから天后にも座れと椅子を勧める。
「ありがとう。勾陣」
「ねぇ勾陣。彰子嬢はお風呂?」
「ああ。もうそろそろ出るんじゃないか?」
と言う口の下から浴室の扉が開いた。
「あら。いらっしゃい、二人とも。──じゃあ次使って、勾陣」
乾かした長い髪を手櫛で整えながら出てきた彰子は自分のベッドに腰かけた。
やはり糊の利いた浴衣を着ていた。
「では行ってくるがゆっくりしていって良いぞ」
勾陣も同じ浴衣と下着を持って交替し、バスタブを軽く流して湯を張り直した。
彰子が使ったのか洗面台に籐の脱衣籠が置いてあった。
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