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□光の先の貴女
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勾陣の姿を見なくなって、数ヵ月がたった。
最初は晴明の言った「勾陣には少し厄介な仕事を頼んだので暫く帰ってこない」
を信じていたのだが、明らかに遅すぎだ。
以前、物の怪に訊ねた事がある。

「もっくん。勾陣ちょっと遅くない?」
「心配しなくてもそのうち帰ってくるだろ」

その時は軽く笑っていたのだ。
けどその後、簀子に出た物の怪が辛そうに顔を歪めていたのを見たのでそれ以来訊いてはいない。

昌浩は最近物の怪がどこか遠くを見ている事を知っている。その顔がどことなく痛そうなのも。
だがそれは陰陽寮の中だけであって、夜警時など外に居るときは普段とまったく変わらない。

今日はそそくさと茵にもぐった昌浩を尻目に、物の怪は簀子に出てきた。
見上げた空は月の光に邪魔される事なく煌めいていた。

…ぅ…だ。騰蛇!

微かに聞こえた音は、風に消される事なく物の怪の耳に届いた。

「────…勾?」

この声を物の怪が間違えるはずがない。
だが今の声は普段の彼女からは想像もつかない程弱く、それでいて恐怖に彩られたものだった。
物の怪は瞬時に本性に立ち代わると簀子を蹴り、安倍邸の抜け出した。





夢中で走って、気が付いたら目の前に建物が見えてきた。

「社?」

霧に包まれていて、ここがどの辺りだか良く分からない。
見えないながらに、どことなく不思議な感じだ。例えるならそう、────道返の聖域の様な。

「聖域、?」

ということは鞍馬の方まで来たのだろうか。
貴船の方へ行った覚えはない。
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