図書
□花が咲くまでに・・・
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「晴明。道場借りるぞ」
高校入試が終わったその日、紅蓮は家にも寄らず真っ直ぐ晴明の家にやって来た。
「まぁ構わんが…、どうかしたのか?」
「別に、ただ久しぶりに竹刀を振りたくなっただけだ」
紅蓮はぶっきらぼうに吐き捨てる。晴明は軽く目を見張る。
「…相手をした方がええかのぅ」
「いや別に、1人でいい」
紅蓮はそれだけ言うとすたすたと道場へ向かった。
胴着に着替え竹刀を構える。目を閉じ小さく息を吸い込むと思い切りよく踏み込んで行く。
シンと冷え切り、静まり返った道場に弾む呼吸と時折聞こえる微かな声が響く。
1人で竹刀を振るその姿は舞いをしているかのようだ。
そう、剣舞と呼ばれる神聖な舞い。
滑らかでいて激しく、緩急をつけて道場の中を舞って行くその姿は、とても優美で、何気なく覗いた晴明は目を離せなくなった。
やがて紅蓮の動きが静かな物に変わり、大きく、長く息を吐き出すと動きを止めた。
其処へ“パチパチパチ”と拍手が響いた。紅蓮は弾む息を整えながらその音の方を見る。
「じーさん!それにお前達も…!」
「蓮兄さんスゴいです!」
「久しぶりにその舞いを見たぞ」
やたらと興奮した昌親と薄い笑みを浮かべた勾陣が立っている。
「何時から…!」
気恥ずかしいのか顔を赤く染め絶句した。
「多分、お前が舞おうと意識した時から、かな?」
勾陣はそう言うと靴下を脱ぎ、制服姿のままツカツカと道場の中へ入る。
「爺様。薙刀在ったよね?」
子供用の竹刀を二本手に持ち晴明に尋ねる。紅蓮は小さく嘆息し勾陣を見る。
「おぉ。今取って来るでの。少し待っておれ」
晴明はそう言い残し蔵へ歩いて行く。
「昌親。ついでに良いもの見せてあげる。ねぇ、蓮?」
「そのカッコでやるつもりか!?」
「構わないでしょう?ま、道場には悪いかな」
勾陣は不敵に笑いながら紅蓮を見る。その笑顔を見て諦めたのか、それ以上何も言わずに道場の入口を見た。
そこへ晴明が薙刀を持ってやって来た。
「これで良いかの」
「あぁ大丈夫だ」
紅蓮が何度か薙刀を振るって感覚を確かめた。
それから勾陣と向かい合い呼吸を合わせる。
「テンポは?」
「さっきと同じで」
「りょーかい」
一言二言、言葉を交わしタイミングを図る。
そして。
タン、と軽やかな音を立て勾陣が踏み込む。それを受ける様に紅蓮も動き出し。
2人の剣舞が始まった。
「うわ…ちょっ…。やべぇ!」
「何を今更」
組み合った瞬間紅蓮が声をあげる。顔をしかめて舞う紅蓮に答えながら勾陣は動きを止める事はない。
紅蓮もやり辛そうではあるが勾陣に合わせていく。
その姿は。
「綺麗…」
昌親が呆然と呟く、それ程までに。
荘厳で美しく、1人の時よりもずっと滑らかで、この世の物とは思えない程だ。
「流石は十二神将…最強と二番手だわい」
思わず呟いた言葉に昌親が首を傾げる。
「お祖父様。十二神将って?」
「神様じゃよ。ずーっと昔から居る」
「神様?皐月姉さんと蓮兄さんが?」
不思議そうに晴明に尋ねる昌親の頭を何度か撫でる。
「秘密じゃよ?」
柔らかく微笑んで人差し指をたてる。そうこうしている間に、舞いは佳境を迎えている。
激しく組み交わされる竹刀と薙刀。だが足音はあまり聞こえて来ない。
そしてその舞いは静かに終焉を迎えた。
あまりの舞いの凄さに見ていた2人は声も出ない。
「…っくしょ…やり辛ぇ…」
「そう…?」
紅蓮が薙刀を支えに立ち肩で息をしながら呟いた。対して勾陣は涼しい顔をしている。
「どんだけ身長差あると思ってるんだ。あの頃と!距離感からして違うんだぞ!?」
「確かにそれは認めよう。だが、少し鈍っているな」
紅蓮の抗議をさらりと交わし、更に下まで突き落とした。
「おまっ…!ひでぇ…」
「事実だろう?大体竹刀をマトモに握ったのも何ヶ月振りだ?」
勾陣にたたみかけられぐっと言葉に詰まった。
そこで初めて昌親が拍手をした。
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