図書
□love triangle
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"好き"と伝える
ただそれだけのことができなくて
詰められずにいた
君との距離
【love triangle】
夜も更けて、家人が寝静まった安部邸。
屋根の上で風に当たっていた勾陣は、視界に塀を飛び越える白い塊をみた。
「騰蛇…?」
物の怪は音もなく外に着地すると、脇目も降らずに駆け出す。
勾陣は一瞬思案する素振りをみせた後、あとを追った。
***
「…騰蛇!」
物の怪の行き先は貴船だった。
こっそりついていこうかとも考えたのだが、なんとなく嫌な予感がして本宮より少し手前で物の怪に追い付くと呼び止める。
「勾、何故ここに?」
驚いたように目を見開いた物の怪だが、迷惑そうな様子は微塵もない。
「出ていくのが見えたものだからな。一緒に行っても?」
貴船にきたということは十中八九貴船の祭神に用だろう。
「あ〜...まぁ」
「…なんだその歯切れの悪さは」
自分がいると困るのだろうか。
「いや?気にするな」
長い尾をぴしりと振って、歩みを再開した物の怪を目で追った。
並んで歩き始めたが、会話はない。
何故だろう。
今までだってよくあったことなのに、最近沈黙が重い。
苦しい。
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