書音
□vigilia di natare
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「おい、勾!」
私はは様子を伺うような声に意識を引っ張り上げられた。
うっすらと目を開けた先には、蛍光灯と見慣れた天井を背景に一人の人影が見えた。
「…騰蛇?」
何で彼がここに…?
まだはっきりしない頭で考えた。
ここは私の家で、鍵は確か閉め…。
「あ…。鍵」
「女の独り暮らしのくせして鍵も閉めずに寝るんじゃない。無用心だぞ」
騰蛇が視界から消えて、蛍光灯の光が眩しく感じた。
どうやら私がソファーで寝ているから、床に直接座ったらしい。
「そういえば、どうしてここに?」
意識がはっきりしないが、それを無視して起き上がったらふらついた。
「おい、大丈夫か?」
とっさに差し伸ばされた手は、難なく私の身体を支えた。
「低血圧で寝起きは悪い。知っているだろう」
「あぁ、そうだったな」
起き上がった事により、一人分空いたスペースに騰蛇が座った。その時、騰蛇の足元でガサリと音がしたのを聞いた。
「それは?」
「お前忘れてるのか?今日の夕飯は俺が作るって言ったろ」
そのビニール袋を持って、騰蛇はキッチンに消えた。
と言っても私のいるソファーから騰蛇の向かったキッチンは丸見えで、そこから騰蛇の料理を作る姿を見ていた。
それから時間が経って、テーブルには豪勢な料理がいくつも並べられた。
「…今日は誰かの誕生日、だったか?」
私がそう言うと、騰蛇は呆れた様にわざとらしくため息を吐いた。
「今日は十二月二十四日。クリスマスイブだ」
そうか。今日は二十四日だったのか。すっかり忘れてしまっていた。
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