書音

□キミが決めた日
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大きな音を立ててガラスの引き戸が開けられる。

「ただいまー」

幼稚園の制服を着た昌浩が、元気良く帰って来た。その後ろには迎えに行っていた勾陣が居る。
そのまま紅蓮がいるはずの居間に向かう。

「ぐれーん」

居間の扉を開けた昌浩は、台所に紅蓮を見つけた。

「ん?お帰り、昌浩」
「ただいまぁ」
「じゃあ昌浩。着替えに行くぞ」

昌浩に遅れて台所にやってきた勾陣が昌浩を連れていく。
それを見た紅蓮が瞬きをした。

「勾が行ってくれてたのか。悪かったな」
「たまには悪くないと思ってな。それだけだよ」

今度こそ勾陣は昌浩を着替えさせに向かった。

「ねぇこうちん。こうちんのたんじょうびっていつなの?」
「は?」
「きょうね、ようちえんでたんじょうびかいがあったの!だからこうちんのたんじょうびっていつかな?って」

なるほど、そういう事か。

「そうか。実はな昌浩、私は誕生日を覚えてないんだよ」
「おぼえてないの?」
「ああ」

着替え終わった昌浩の顔には「なんで?」とはっきりと書かれている。
人の思いで生まれた十二神将。長い、永遠にも近い時を生きる彼らでも、生まれた時とは思い出すのも忘れてしまうほど昔だった。

「ねぇぐれんのたんじょうびっていつ?」

着替えて戻ってきた昌浩の突拍子もない話しに、紅蓮は後ろで笑っている勾陣に視線を向けた。

「何の話だ?」
「今日、幼稚園で誕生日会があったらしい」
「なるほど」

合点のいった紅蓮は膝を折って、昌浩の目線に合わせた。

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