書音

□全ては愛故に
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──変だ

出仕する昌浩を見送る彰子の横に顕現していた勾陣はそう思った。
朝、昌浩が起きてから朝餉を食べている間とそして今。物の怪が変だ。
昌浩や晴明、彰子には普通なのだ。ただ、勾陣に対してだけ変なのだ。

「どうしたの?勾陣」

彰子に呼び掛けられ、下を向けばきょとんと首を傾けていた。

「いや、なんでもない」
「そう?でも何だか悲しそうな顔をしてるわよ?」

虚を衝かれるとは、まさにこれか。そう実感しながらも勾陣はなんでもないと首を振った。
それから彰子と別れ、一人になった勾陣は昨日の事を思い出していた。
昨日は普通だった。夜警にも着いて行ったし、あいつは意気揚々と人の肩に乗っていた。
なら、今日は何故。

「寒いな…」


こうして思考の海に沈んでいるうちに、日は傾き始めていた。もうすぐ昌浩たちが帰ってくる。
帰ってきたら問い詰めてやろう。
こんな気分になるのは、あいつが中途半端に人の事を避けるからだ。
その結論にたどり着いた勾陣は、下ろしていた瞼を持ち上げた。

「ただいまー」昌浩が帰ってきた。
勾陣は立ち上がると、屋根から身を踊らせた。


「昌浩」

昌浩の部屋に顕現すると、物の怪が後ろ回り一回半ひねりを決めたとこだった。

「何?勾陣」

着地が綺麗に決まり、「どーよ昌浩」等と威張っている物の怪を流して、昌浩は勾陣の許に来た。

「あそこで落ち込んでいる物の怪を借りても良いだろうか」

指をさし、からかうが物の怪からは何も返ってこない。

「あー、もっくん?連れてくのに俺の許可は要らないから。勝手に良いよ」
「おい昌浩!俺は物じゃない!」
「そうか。ありがとう」

なんだろう。この差は。

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