書音
□やっと会えた
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いつからこうしているだろうか。
薄暗い夕日が差し込む部屋の中で、動かずじっとしている人影がうずくまっていた。
カーテンから入ってきた夕日が彼の髪に当たり、深紅に染まっている。
その時。
彼の携帯が無比質な音を立てて光った。
「…もしもし?」
足元に置かれていた携帯に手を伸ばした。
『……………騰蛇、か?』
恐る恐るといった感じで出てきた相手の声に、彼――騰蛇――は怒りを露わにした。
「電話が遅い!」
騰蛇は今朝からずっとこのたった一本の電話を待っていたのだ。その電話がこの時間になれば怒りたくもなるだろう。
『確かに電話すると書いたがいつするとは書いていない』
開き直った相手に、騰蛇はため息を漏らした。
「そうだよ…。お前はそういう奴だ」
『わかってるじゃないか』
「――元気だったか、勾」
勾陣。三年間カナダに留学に行っていた騰蛇の恋人。
『元気だよ。連絡できなくてすまなかったな』
騰蛇の前から突如として姿を消した勾陣から連絡があったのは、今朝自宅のポストに入れられていた一通のエアメールだった。これが届くまで騰蛇は勾陣の所在を知らなかったのだ。
『だから』
勾陣の台詞は最後まで言うこと叶わなかった。玄関のチャイムが鳴ったのだ。
「ちょっと待っててくれ。誰か来た」
騰蛇は勾陣に一言謝ると、玄関と扉を開けた。
「だから、会いに来てやったぞ。騰蛇」
なっ、と言葉が詰まった騰蛇を面白そうに笑いながら、携帯の電源を切る。
勾陣が動かない騰蛇に一歩近寄った、だが二人の距離はあっという間に縮まった。
「!?」
騰蛇が抱きしめたのだ。
「勝手に消えて勝手に現れるな。・・・バカ」
「すまん」
騰蛇の肩にかかった僅かな重み。
それさえも、今は嬉しかった。
「もう、二度と消えるな」
「お前がちゃんと掴まえておけばな」
いつも通りの彼女の言葉に、騰蛇は笑った。
「当たり前だ。お前は俺以外では無理だからな」
「なんだそれは」
「お前は俺の物だということだ」
「お前が私の物だろう?」
結局、二人が言っているのは同じことなのだ。
互いが互いの物で、お互いが一番なのだ。
End.