書音
□特別なお菓子
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今日は10月31日。
数年前まではChristmasほど知られていなかった行事だったのに。
いつの間にこんなにも普及したのだろうか。
かと言う安倍家もまた、この時期になれば毎年のようにHalloweenの飾り付けは勿論、
昌浩を含めた子ども達が仮装をしているのだった。
…さて。
今年はどんな格好をするのやら。
そんなことを考えながら目の前にある南瓜と格闘していると、
今しがた考えていた子の声が響いた。
「あー!
紅蓮、ここに居たんだー?」
「…ん?なんだ、昌浩か」
「何だとは何さ…ってそれ、今年は紅蓮が作ってくれてるの?」
指を差された先、『それ』とは目の前にある南瓜、
もとい、Jack-o'-Lanternのことである。
昨年は確か六合が作っていたが、今年は買出し組で出ていた為、
自分が作っているのだった。
…で、丁度切り込みを入れ、後はその場所を落とすだけだったので、
昌浩にやらせようと声を掛ける。
「あぁ。
…昌浩、こことここ、押してみろ」
「え?もしかして、もう完成?
やった!俺ここ押すの、一回やってみたかったんだよねぇ。
…えいっ!」
そう言って嬉しそうに南瓜の切り込みを押す姿に、思わず笑みが零れる。
が、その様子を見ていてそういえば…、
と思った。
「昌浩、お前まだ着替えないのか?」
「あぁ、うん。
もう着替えるつもりなんだけど…迷ってるんだよねぇ」
いつもならばもう日も暮れかかったこの時間には、
既に仮装をして支度をしているはずだったので不思議に思ってそう訊けば、
なんともまぁ昌浩らしい答えが返ってきたのだった。
「…ちなみに訊くが、何と何で迷ってるんだ」
「えーっと…狼男か、ドラキュラか…あぁどうしよう」
何故そこまで真剣に…と思わないでもなかいが、
恐らく昌浩のこの様子だ、彰子のことが絡んでいるのだろうと、
安易に想像がつく。
「…で、彰子は何に仮装すると言っていたんだ」
「今年は黒猫って言ってたよ!
…って彰子の聞いてどうすんのさ!」
「あのなぁ…そうでなくて…
それだったら狼男でいいんじゃないのか?」
俺の言った一言で、はたっと何かに気が付いたらしい。
…猫と狼なら、お似合いだろう?そう思って苦笑を零す。
うん!そうするよっ、紅蓮、ありがとうっ!
と走り去っていく昌浩の姿があった。
紅蓮のお菓子、楽しみにしてるね!
という置き土産ならぬ、置き台詞を残して。
…相変わらず落ち着きの無い。
まぁでも…今年も賑やかになりそうだ、
と思いながら、完成したかぼちゃのお化けを玄関に置きに行ったのだった。