書音

□喧嘩の後の
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最近、紅蓮の帰りが遅くなった。それは仕事だし、別に慧斗は気にしていないつもりだった。
あの言葉を訊くまでは。


本日の朝食当番は慧斗だった。紅蓮は昨日休みだと言ったのでまだ寝ている。
だが、休みでも朝食はちゃんと摂らないと身体に悪い。という訳で慧斗は起こしに向かった。

返事がないのは分かっているが、一応ノックをしてから扉を開けた。

「紅蓮?」

ベッドで眠る紅蓮を見ると、やっぱり疲れてるんだろうなと思う。枕元まで行って、髪を梳いた。

「……みずき」

小さく呟かれた言葉に、髪に触れていた慧斗の手がぴたりと止まった。
それから力無く立ち上がると部屋を出た。

廊下に出た慧斗は、後ろ手でドアノブを掴んだまま扉に背を預け俯いた。
先程紅蓮が呟いたのは名前だった。
それは慧斗の親友の名前で、紅蓮とは多少面識がある程度だ。
あのタイミングで、例え寝言でも他のヒトの名前は訊きたくなかった。
慧斗は吹っ切るように首を振ると、リビングに戻った。

用意しておいた朝食を一人で食べる。
先程の衝撃が強すぎて、思考が悪い方へと向かう。
最近の紅蓮の行動を思い返してみた。
その一、紅蓮の帰りが遅くなった。
その二、目を合わせようとしない。
その三、慧斗と関わろうとしない。
その四、さっきの寝言。

つまり…、飽きたのだろうか。
慧斗は持っていた箸を置いた。
自分の考えに自分で傷ついたなんてお笑い草だ。

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