書音

□Happy Halloween
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「……は?」

今日の日付は10月31日、俗に云うハロウィン

お菓子目当ての子供達が、回りの大人にお菓子をねだる、ハロウィンだけの魔法の言葉。
別にそれは子供だけ、と決まっているものではないのだが

まさか目の前の彼女の口から、その魔法の言葉を聞くとは
全く予想していなかった騰蛇は、思わず冒頭の言葉を口にしていた。

「trick or treat?」

予想通りの反応に、
くつくつと笑みをこぼしながら、勾陣はもう一度同じ言葉を口にする。

「まさか、用意していないわけではあるまい?」
「いや、用意はしている…してはいるんだが、まさかお前が菓子をねだるとは思わなかった。」

毎年毎年、騰蛇は前日から六合と共に台所を占拠して、簡単なお菓子を作っていて
そして、そのお菓子は神将全員の手に渡る。
理由は簡単
昌浩や彰子、太陰の悪戯なら可愛らしいものだと、笑えるし
お菓子目的だから良いのだが

1人、悪戯目的の質の悪い大人がいるのだ。

「たまには、こういう行事に参加するのは悪くないだろう?」
「…前のあれで、懲りたとか言ってなかったか?お前」

因みにこの2人は数年前に、悪戯の餌食になっている。(まぁその時の悪戯の話しは、また別の機会に置いておこう。)

「気にするな、それで?お菓子を渡すか悪戯か、どっちだ?」
「悪戯は勘弁してくれ」

ほら、と差し出されたクッキー袋にはちゃんとラッピングがしてあって
彼女は意地悪げに笑う。

「さすがに、何年もやってると不器用なりに、出来るものだな」
「どういう意味だ……ったく」

あえて黙殺を決め込んで、勾陣はスルリ、とリボンをほどく。
そしてそのまま一枚取り出し、口に運べば
サクサクとした食感と、ほんのりとしたバターの甘味が広がる。

食卓の上には、リボンの色が違う袋が数種類置いてあって
律儀なものだな、と笑えた。

それらは全て味が違うのだ

甘いのを好むお子様達には、砂糖やチョコレートたっぷりな、デコレーションクッキー
同じように甘いのを好む、大人組には
ココアや、ドライフルーツを練り込んだクッキー

大人組でも白虎や六合達のような、甘い物を好まない奴らには
コーヒーや紅茶を練り込んだ、甘さ控えめのクッキー

青龍や天后とは、まだ仲は良いとは言えないのに、
ぶつぶつ言いながらも、2人が好む味を騰蛇はちゃんと把握している。
それが、なんだかおかしくて思わず笑ってしまう。

「本当に、主婦だなアイツは」

サクリ、と再び一枚口に運ぶと
彼女の目の前に置かれる、コーヒーカップ。
中身は勾陣の好む味の紅茶

「コーヒーよりは紅茶の方が合うだろ?」
「あぁ、悪いな」

向かいの椅子に座り、淹れたコーヒーを口にしながら
騰蛇はふと思いついたかの様に、魔法の言葉を紡ぐ。

「trick or treat、勾」
「ん、あぁ…ほら」

差し出されたクッキーに、騰蛇は首を振る。

そして彼女が口を開く前に、その唇に触れた。
一瞬、掠めるような口づけ
それが、彼にとっては何よりも甘い、至極のお菓子。

「ごちそうさま」
「っ…!」

さぁ、楽しいハロウィンはまだまだこれから。

ーtrick or treat…?ー


それは、逃げる事の出来ない
甘い甘い、特別な魔法

End.
 

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